賃料減額しない旨の特約があっても借主の減額請求権が認められた事例

建物所有を目的とする土地の賃貸借契約において、

賃料を減額しない旨の特約があっても、

賃借人から借地借家法第11条の規定に基づく賃料減額請求権の行使が

認められた事例 (最高裁平成16年6月29日判決、判例時報1868号52頁)

(事案の概要)

本件土地賃貸借契約は、「3年ごとに賃料の改定を行うものとし、

改定後の賃料は従前の賃料に消費者物価指数の変動率を乗じ、

公租公課の増減額を加除した額とするが、

消費者物価指数が降下しても賃料を減額することはない」旨の特約が付されていた。

これまで、本件土地の賃料は、本件特約に従って3年ごとに改定されてきたが、

賃借人は、「その後土地の価格が4分の1程度に下落したことなどに照らして

現在の賃料額は高すぎる」と主張して、賃貸人に対して賃料の減額を請求し、

減額後の賃料額の確認を求めて本件訴訟を提起した。

これに対し、原審の大阪高等裁判所は、「本件のような賃料の改定特約は、

賃料の改定をめぐって当事者間に生じがちな紛争を事前に回避するために、

改定の時期、賃料額の決定方法を定めておくものであり、本件特約は、

消費者物価指数という客観的な数値であって賃料に影響を与えやすい要素を

決定基準とするものであるから有効である。

したがって、本件特約に基づかない賃借人らの賃料減額請求の

意思表示の効力を認めることはできない」として賃借人の請求を棄却した。

そこで、賃借人は、原判決を不服として、最高裁に上告受理の申立てを行った。

(判決)

最高裁は、上告受理の申立てを受理し、『本件土地賃貸借契約においては、

消費者物価指数が降下したとしても賃料を減額しない旨の特約が存する。

しかし、しかし、借地借家法第11条1項の規定は、強行法規であって、

本件特約によってその適用を排除することができないものである。

したがって、賃貸借契約の当事者は、本件特約が存することにより

借地借家法第11条1項の規定に基づく賃料減額請求権の行使を

妨げられるものではないと解すべきである。』と判示した。

(短評)

本件は、賃料改定特約がある場合に、

特約に基づく請求ではなく(本件では「減額することはないとの定め」が

あるためその余地はないが)、借地借家法第11条に基づく賃料減額請求が

できるかがあらそわれた事案であるが、特約によっても減額請求を制限することは

できないとのこれまでの最高裁判例を確認したものである。

本判決は、賃料の減額をしない特約が明らかに存する場合においても、

賃借人からの賃料減額請求が認められた点において事例的な意義がある。

消費者契約法1

(1)消費者契約法の消費者とは借家人で建物を住居として利用する個人

2001年4月1日から消費者契約法が施行されています。

「消費者」と「事業者」

この法律で最も特徴がある点は、「事業者」と「消費者」の定義です。

「事業者」とは、?「法人その他の団体」、

?「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」です。

それ以外の個人はすべて「消費者」です。

「事業」とは、一定の目的をもった同種の行為がくり返し行われるものであり、

営利目的の有無は問いません。この定義は非常に広いもので、国も「事業者」になりえます。

消費者と事業者の間でなされる契約を「消費者契約」といいます。

この「消費者契約」というのは、個別の売買契約、工事請負契約とは別の次元になり、

個別の契約の上に消費者契約という網をかぶせるものです。

借地借家人は「消費者」

借地借家契約と消費者契約の関係は次ぎのようになります。

(例1)

個人の家主と個人の借家人が住居目的で借家契約をした場合、

家主は事業として貸家契約をするので「事業者」になります。

借家人は、個人で、しかも事業のための借家契約ではないので、

「消費者」になります。この借家契約は「消費者契約」です。

(例2)

個人の家主と個人の借家人が店舗目的で借家契約をした場合、

借家人は、個人ですが店舗営業という事業のために借家契約をするので

「消費者」には該当せず、この借家契約は「消費者契約」ではありません。

(例3)

個人の家主と会社名義で住居として借家契約をした借家人は、

たとえ住居目的であっても、契約の当事者が個人でなく会社名義なので、

「消費者」には該当せず、この借家契約は「消費者契約」ではありません。

では、借地借家契約が「消費者契約」である場合、借地借家人はどんな権利行使ができるのか?

(2)事実と異なることを告げられた賃料

値上げや更新料の支払約束は取消せる

消費者の取消権

消費者契約をする場合、事業者は、?重要事項について事実と異なることを告げたり(不実告知)、

?将来の価額、金額、価値の変動が不確実な事項について、

断定的な言い方をして(断定的判断の提供)契約をすることができません。

また、事業者は、?ある重要事項やそれに関連する事項について、

消費者の利益となることだけを強調し不利益になることを隠して

(不利益事実の不告知)契約することができません。

取引社会ではあの手この手の方便を使って、事業者は契約を勧誘します。

事業者は、消費者に比べれば、売りつける物品、サービスあるいは契約内容について、

圧倒的な情報を握っています。

情報量の格差をこれ幸いに消費者をだますような契約は不公正です

消費者契約法は、前記の3点のようなことがあった場合、

消費者にあとから契約を取り消す権利を与えました。

借地借家契約の場合

消費者契約法は、平成13年4月1日からの施行ですから、

この法律が適用されるのは、4月1日以降の契約に限られます。

しかし、それ以前からの借地人、借家人は、この法律を使えないのかといえば、そうではありません。

当初の借地借家契約が平成13年4月1日以前であっても、その借地借家契約に付随して、

例えば、地代家賃の値上に関する契約、更新料支払に関する契約、一時立退再入居に関する契約、

立退に関する契約、借地建物増改築に関する契約、更新に関する契約など、

当事者間で取り交わす合意事項があります。

これらの付随的合意は、その一つ一つが消費者契約となり得る別個の契約であり、

既存の借地借家であっても、平成13年4月1日以降になされるこれらの契約(合意)には適用されます。

(例1)賃料値上問題

地主・家主が今年は税金が上がったので賃料を上げてくれといってきた。

借地借家人は止むを得ないと思って値上に応じたが、実は税金は上がっていなかった。

賃料増額契約について公租公課額の増減は重要事項なので、

この点で事実と異なることを告げられて増額を承諾した借地借家人は、

増額合意を取消すことができる。

(例2)借地更新料支払問題

更新料支払約束のない借地契約なのに地主は更新料を要求した。

その理由として、法律でも支払うことになっているし、

自分の貸地の借地人は全員が払っていると説明した。

借地人は、しぶしぶ更新料を払うと約束してしまったが、

地主の借地人の中には払っていない人も数人いたことがわかった。

この場合、支払約束のない更新料について支払義務があるという法律はないし

他の借地人全員が支払っているということも事実と異なっており、

いずれも重要事項と言えるので、この借地人は、更新料支払約束を取消すことができる。

借地借家人が取り消せる契約のあり方は、もう一つあります。

(3)解約後賃料の5倍の損害金を払うなど

借家人に不利益になる約定は無効

不退去・監禁

消費者契約法は、自宅を訪れた事業者に対し退去を求めたのに

退去しないで契約をさせられた場合(不退去型契約)や事業者の事務所などに

呼ばれた消費者が帰りたがっているのに帰してもらえないまま契約をさせられた場合(監禁型契約)、

その契約を取消すことができると定めています。借地借家のケースを想定すると、

(例3)明渡し約束

借家契約の更新期に家主が自宅にやってきて、今回は更新するが次回には更新しないので

そのことを契約書に書き入れてくれ、書かないのであれば更新しないと要求。

借家人は、よく考えて返事するから帰ってくれと答えるが、

家主は、今了解しないのなら更新はしないと迫り、

困り果てて家主の言とおりに契約書に印を押してしまった。

これは、不退去型の困惑契約になるので、借家人は取消すことができる。

以上ですが、消費者契約で取消せる契約をまとめると、

不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知により消費者が誤認した場合、

不退去、監禁により消費者が困惑した場合ということになります。

事業者の代理人

消費者に誤認をさせる、困惑させることは事業者本人でなくともできます。

事業者から契約の委託を受けた者あるいは代理人となった者が同じことをすれば、

消費者は、事業者が行ったのと同様に契約を取消すことができます。

借地借家の場合は、不動産仲介業者が地主、家主の代理人となることが多いですが、

事業者と同じと扱われることになります。

取消権行使の期限

消費者に契約の取消権がある場合、権利行使には時間の制限があります。

不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知の場合は

消費者が誤認したことに気付いたときから、不退去、監禁の場合は不退去、

監禁が終わったときから、6か月以内に取消さなければなりません。

また、契約してから五年経つと無条件に取消すことができなくなります。

契約条項無効

消費者契約法は、消費者に不当な不利益を与える契約条項は

無効である旨定めています。たとえば、借家契約書に、

賃貸借契約解除後立ち退くまでの間、契約家賃の5倍の損害金を支払うことが

明記されていたとします。このような損害金条項については、

「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものは、

超える部分については無効」とされます。

何が平均的な損害の額かは明白ではありませんが、

新規に賃貸すれば得られるであろう賃料額と考えればいいと思います。

また、賃料滞納した場合、滞納賃料に年20%の遅延利息を付すという条項があったとすると、

消費者契約法では上限を14.6%としていますので、これを超える部分は無効となります。

賃貸住宅の更新料は払わなくてよい?家賃引き下げる絶好の機会?その具体的交渉法とは

 2年に一度、必ずやってくる「家計の悪魔」と言ったら、あなたは何を思い浮かべるだろうか? ひとつは自動車の車検(新車購入時は3年後)で、もうひとつが賃貸住宅の更新料なのではないか。

 毎月払っている家賃とは別に、その月だけ、次の2年間の賃貸借契約を再締結するために、店子側が1カ月分余計に払わないといけない。かつては関東など一部地域のローカルルールだったが、いまや全国的な慣習になりつつある。ぼんやりしていると、とたんに家計が赤字に陥ってしまうのではなかろうか。

 しかし、ものは考えよう。更新が近づいてきた時期は、絶体絶命のピンチどころか、「家計の悪魔」を退治する絶好のチャンスでもある。取り組み方によっては、家賃を大幅に下げるか、もしそれがかなわないとすれば、更新料をその年だけでなく、引っ越さない限りは二度と払わないようにすることだって可能なのだ。

●具体的な値下げ交渉の例

 年々家賃が下落していくなか、同じ物件に長く住み続けている人ほど、世間相場より高い家賃を払わされているケースが多い。もし、明らかに高い家賃を払っていることが判明した場合は、近隣同種と同じ家賃にしてもらえるよう、大家(交渉窓口は管理会社)と交渉すべきなのだが、その絶好のタイミングなのが更新を目前に控えた時期なのである。

 管理会社から「更新のお知らせ」なる文書が届いたら、その返信として、家賃値下げの要請を行えばよい。2年間の契約期間が満了するに当たって、退去せずに再度次の2年間の契約を更新してあげる代わりに、家賃の値下げを要請するのである。具体的な文例を以下に掲載しておこう。

「海千山千不動産・賃貸管理部
○○マンション担当者様

前略
お送りいただきました『更新のお知らせ』につきまして、取り急ぎ回答いたします。
私が入居した○年前とは経済事情が大きく変わり、近隣同種の家賃は大幅に下がっています。つきましては、現在○万円の家賃を、近隣同種と同水準の○万円にしていただきたく存じます(ご参考までに近隣データを同封しました)。
もし、この額にご同意いただけるようでしたら、新賃料が記載された更新書類をご送付下さい。また、現行賃料のまま据え置かれるのでしたら、引っ越しを検討いたしますので、○年○月○日まで、その旨お知らせいただきたく存じます。
以上、よろしくお願いいたします。
草々
○年○月○日  ○○マンション△△号室入居者 ○○」
(出典:『家賃を2割下げる方法』<日向咲嗣/三五館>)

 交渉が苦手な人でも、決まった文書を書いて送るだけならば抵抗なくできるはず。

このとき、事前に導き出した適正家賃の根拠を明示しておくのがコツ。例えば、いま家賃8万円を払っているのに、賃貸サイトで検索すると同じアパート・マンションの隣の部屋が7万円で入居者を募集していたら、その募集データを印刷して同封しておくのである。

あとは、先方からの連絡を待つのみと言いたいところだが、念のため文書を送付した数日後にちゃんと先方に届いているかどうかだけは、担当者に電話で確認しておきたい。あとで「そんなものは届いていない」と言い逃れされないためだ。届いていることさえ確認されれば、「ご検討お願いします」と一言添えておけばよい。

●大家サイドの対応次第で、引っ越しも検討

 値下げレターに対する大家サイドの反応は、以下の4パターンに分かれる。

(1)何の返事もこない
(2)要求した額の値下げは無理だが、一部減額なら応じられるとの回答が来る
(3)減額には一切応じられないと拒否の回答が来る
(4)こちらの要求を全面的に受け入れた満額回答が来る

 最も望ましいのは、やはり(4)の満額回答パターンだが、現実にはあまり期待はできない。ただ、契約を何度も更新して10年以上住み続けていて、その間一度も家賃改定が行われていなかったり、好景気の時期にロクに比較もせずに入居した人ならば、2割程度の値下げを要求しても、それがすんなり通る可能性は十分にある。うまくいけば、一枚のレターを送るだけで総額何十万円ものお金が浮くことになるのだから、相当にコストパフォーマンスが高い交渉といえるだろう。

 意外にやっかいなのが、(2)の一部減額パターン。値下げ要求額1万円に対して、5000円の減額回答ならば、引っ越しに伴う諸々のめんどうや費用を考慮して妥協してもいいという考え方も当然ありえるだろうが、減額回答が2000円程度の中途半端だった場合にどう判断するかが難しいところ。

 月2000円では、2年間の総額で4万8000円しか浮かない。確実に毎月1万円安くなる部屋に引っ越して2年間で24万円浮くのと比較すれば、あまりにも少ない。さらに引っ越し先が入居時にフリーレント(一定期間家賃無料特約)付きなら、それだけで引っ越し費用の大半は賄えるはずだから、更新はキッパリお断りして、引っ越したほうがはるかに有利という結論に達するだろう。

●合法的に更新料をなくす裏技

 また、(1)と(3)はいずれも完全にノーの意思表示だ。家賃減額に関しては、ほぼ絶望的だ。これ以上交渉しても、無駄な努力になりかねないため、さっさとあきらめるしかないといいたいところだが、実は、このパターンになったときこそが更新料を合法的にカットできる、またとないチャンスなのである。

 具体的にどうすればよいかというと、何もしなくていい。

 管理会社から送られてきた契約更新書類、更新する場合は署名捺印して返送するが、これをただ放置しておけばよい。そして、そのまま契約が満了する日まで待ち、満了日以降もこれまでと同じ家賃を払い続ける。もちろん、更新料は1円も払わない。

「そんなことしたら、大家に追い出されてしまう」

 そう心配するかもしれないが、現実には、まずそんな事態は起こらない。なぜならば、店子は「借地借家法」という法律で手厚く守られているからだ。詳しくは次回解説するが、一般の賃貸住宅の契約において、契約期間満了後も家賃を滞納することなく住み続けていれば、たとえ大家と条件面で合意に達していなくても、契約が満了した後、これまでと同じ条件で契約は自動更新されたものとみなすことになっているのである(借地借家法第26条に規定。これを「法定更新」と呼ぶ)。

 しかも、そうして法定更新された契約は「期間の定めのないものとする」とされているため、一度自動更新してしまえば、これまで2年ごとに払っていた更新料は、よそに引っ越さない限り、永遠に払わなくてよくなる。

 大家サイドとしては、それでも更新料を取りたかったら、改めて家賃交渉のテーブルにつき、多少の譲歩をした額で店子と契約を正式に締結する(「合意更新」と呼ぶ)しかない。つまり、家賃を下げずに更新料をあきらめるか、更新料は通常通りもらう代わりに家賃を下げるか、そのどちらかを選択するしかない事態に追い込めるのである。

 自分に味方してくれる法律を知ってさえいれば、確実にトクできる典型例といえるだろう。

少額訴訟制度とは?

1-1. 少額訴訟制度とは? (しょうがくそしょうせいどとは?) 
 少額訴訟制度は、60万円以下の金銭の支払いの請求を目的とする少額の紛争について、 その紛争額に見合った費用と時間で紛争を解決するための、新たな訴訟制度です。 通常の訴訟とは異なり、簡易・迅速な解決を図るための特別な手続が用意されており、 原則として一回の口頭弁論で審理を終え、その日のうちに判決の言渡しもなされます。 また、弁護士に訴訟を委任しなくとも、本人自身で訴訟を追行できるよう工夫されています。 少額訴訟制度は施行から数年が経とうとしていますが、実際、弁護士が 代理しているケースはほとんどありません。まさに「一般市民にとって最も身近で利用しやすく、 分かりやすい裁判手続」と言うことができます。 

1-2. 創設の経緯 (そうせつのけいい) 
 アメリカやイギリスなどの諸外国では、かなり以前から少額な金銭の民事紛争を処理する機関が つくられ、それなりの効果をあげています。それでは、なぜ今まで(1998年創設まで)日本においてこのような制度が創設されなかったのでしょうか? 
 実は、日本でも、旧民事訴訟法下において、訴額が90万円以下の少額な民事事件を簡易・迅速に 解決するため、簡易裁判所において特別な規則を設けていました。しかしその後の経過の中で、簡易 裁判所は、地方裁判所の手続とほとんど変わりのないものとなってしまい、そのため少額な 金銭の支払いを求める紛争では、訴訟を起こしてもその労力と費用がペイされず、多くの人は結局 泣き寝入りを強いられるといった状況になってしまいました。そこで、もう一度簡易裁判所の理念を見直し、簡裁を 一般市民にとってより身近で利用しやすいものとするため、市民間の少額な民事紛争を、簡易・迅速に 解決する訴訟制度を設けようということになり、1998年1月1日新民事訴訟法の施行により少額訴訟制度がスタートすることとなりました。 

2-1. 少額訴訟の対象 (しょうがくそしょうのたいしょう) 
 訴額(相手方に対して支払いを求める価額)が60万円以下で、かつ金銭の請求を目的とする訴えに限られます(民訴368Ⅰ)。 したがって訴額が60万円以下であっても、不動産・動産の明渡し・引渡し、登記手続の意思表示の擬制、債務不存在確認訴訟などは、少額訴訟の対象とはなりません。 
 少額訴訟の対象となる具体的なケースとしては、以下のようなものがあげられます。 
 (1) 敷金返還請求、 
 (2) 貸金返還請求、 
 (3) 賃金請求、 
 (4) 売掛金(売買代金)請求、 
 (5) 解雇予告手当請求、 
 (6) 交通事故(物損)による損害賠償請求、 
 (7) 非交通事故関係の損害賠償請求、 
 (8) 請負代金請求、 etc… 

2-2. 一部請求 (いちぶせいきゅう) 
 一部請求(80万の債権の内の60万についてだけ少額訴訟で訴える等)については、 訴えの提起の仕方で扱いが異なってくるため、専門家(弁護士・司法書士)の方々に相談することをおすすめします。 

2-3. 利用回数制限 (りようかいすうせいげん) 
 少額訴訟は、一人の原告につき、同一の簡易裁判所において、年10回までに限られます(民訴368Ⅰ但書)。 金融業者や取立業者などが債権取り立てのために少額訴訟を独占し、一般市民の利用が阻害されてしまわないよう、 このような利用回数制限が設けられました。少額訴訟を提起し、その後訴えを取下げた場合や、 通常訴訟に移行してしまった場合なども、一回として数えられます。 

2-4. 利用回数制限違反 (りようかいすうせいげんいはん) 
 少額訴訟を提起する際、その簡易裁判所において少額訴訟による審理および裁判を求めた回数を 届け出なければなりません。原告が10回を超えて少額訴訟による審理および裁判を求める申述を した場合、または原告が利用回数の届出をせず、裁判所からの利用回数届出の命令にも応じない場合 、裁判所は訴訟を通常手続に移行する決定をします(民訴373Ⅲ①②)。また、原告が利用回数に 関して虚偽の届出をした場合、10万円以下の過料に処せられます(民訴381Ⅰ)。 

3-1. 少額訴訟の提起にかかる費用 (ていきにかかるひよう) 
 少額訴訟の提起においてかかる主な費用は、裁判所へ納める申立て手数料と、郵券代です。 

(1) 申し立て手数料
 少額訴訟を提起する際には、裁判所へ申し立ての手数料を納めなければなりません。  この申し立て手数料は、訴状に額面分の収入印紙を貼って納めます。  申し立て手数料は、訴額(相手方に対して支払いを求める価額)に応じて加算されます。  訴額とは、相手方に対して支払いを求める価額のことで、遅延損害金や利息等は含めません。 
 申し立て手数料は、具体的には次のように定められています。 
  訴額が100万円までの部分→その価額10万円までごとに1000円 
  訴額が100万円を超える部分→その価額20万円までごとに1000円 
分かりにくいので、表にしてみました。以下のとおりです。 
(円)

訴額 ~10万 ~20万 ~30万 ~40万 ~50万 ~60万
手数料 1000 2000 3000 4000 5000 6000
訴額 ~70万 ~80万 ~90万 ~100万 ~120万 ~140万
手数料 7000 8000 9000 10000 11000 12000



(2) 郵券代
 郵券とは切手のことで、必要分の切手を購入して切手を裁判所へ提出します。  この郵券は、訴状の送達や、呼出状、判決の送付などに使用されます。  訴訟が終了した後に、郵券が使用されずにあまれば、申立人に返却されます。  この郵券代は、だいたい3000~5000円程度ですが、 この郵券の総額及び内訳は、管轄の裁判所によって異なり、 また原告及び被告の人数によって加算されますので、 必ず訴えを提起する裁判所へ確認して下さい。 
 参考までに、東京簡易裁判所の取り扱いは下記のとおりです (ただし変動がありえますので、必ず裁判所へお問い合わせ下さい)。 

* 東京簡易裁判所の少額訴訟の予納郵券
 原告及び被告がそれぞれ1人の場合→3910円分の切手を納める。
 原告、被告がそれぞれ1名増すごとに2100円の切手が必要。 
  3910円の切手の内訳
   500円切手→5枚
   200円切手→2枚
   100円切手→4枚
   80円切手→5枚
   20円切手→8枚
   10円切手→5枚 

3-2. 相手方に請求できる訴訟費用 (そしょうひよう) 
 『訴訟費用』は原則として敗訴者の負担となります(民訴61条)。  よって敗訴者が決まる前(訴え提起の時点)では原告が立て替えるかたちになります。  『訴訟費用』には、手数料(収入印紙代)、予納郵券代、訴状の作成費、 証人を呼ぶ場合にかかる旅費など、が含まれます。  ただし、弁護士費用や、訴状作成を司法書士に依頼した場合の費用などは 『訴訟費用』には含まれず、原則として当事者各自での負担となります。  その他、算出が不明瞭な細かな費用(細かな交通費・電話代等)も 当事者各自の負担になる場合があり、注意が必要です。  なお、判決を下す場合には、裁判所は訴訟費用の負担に関する判断をも することになっていますが、訴状の「請求の趣旨」のところに、 「訴訟費用は被告の負担とする」 と記載し、実際に求める訴訟費用の細かな内訳 についても記載しておきましょう。  この点に関しては具体的な事例に沿った判断も必要ですので、 簡易裁判所でよく相談しましょう。 

敷金を取り戻す最終手段! 「少額訴訟」の費用と手続き

残念ながら敷金返還でもめてしまった場合はどうすればいいのでしょう。最近では、「仕方がない」と泣き寝入りする人は減っているとか。今回は賃貸における敷金トラブルの最終的な対処手段について紹介します。

■まず各都道府県の不動産窓口に相談して、理論武装する

「原状回復の費用に関して納得いかない」、「立会いしなかったら、後で高額な請求がきた」などの場合は、まず電話もしくは書面(メール、FAX)で交渉を。不安なら、各都道府県にある不動産相談窓口や国民生活センターに、自分のケース、大家や不動産会社の言い分も合わせて相談し、理論武装しておくのも有効です。例えば不動産会社から「国土交通省のガイドラインは法律ではないんですよ(だから守る必要はありません)」と言われたとしても、「消費者契約法」「借地借家法」という法律もあり、「通常使用による消耗の修繕費用は貸主負担」としている判例もたくさんあります。

※敷金診断士の作成した査定書が有効です

 

■意外と簡単? 最終的には少額訴訟で対抗

敷金トラブルでもめた場合の最終手段は「少額訴訟」です。これは60万円以下の金銭の支払いを求める場合で、紛争の内容があまり複雑でない民事訴訟の手続き。弁護士を立てずに訴訟が起こせるため、敷金返還トラブルではよく利用されるポピュラーなものです。

「訴訟というと、面倒、お金がかかる、と思われがちかもしれませんが、手数料は数千円と安く、簡易裁判所に足を運べば、そこの担当官がていねいに書類の書き方を教えてくれるはずです。少額訴訟を行った私の友人は“思っていたい以上に簡単だった”と言っていました」(長谷川さん)。もちろん訴訟結果はケースバイケースで、「訴訟すれば必ず勝てる」というものではありません。ただし最終手段として少額訴訟という選択肢があることを知っておいて損はないのではないでしょうか。

■敷金返還で泣き寝入りする人は減っている

ここまで「敷金返還でもめた場合の対処法」について説明してきましたが、実は、敷金トラブルは減少傾向にあるようです。国民生活センターの発表でも、賃貸住宅の敷金および原状回復トラブルの相談件数は減っています。「理由は2つ。ネットを通して誰もが敷金返還のルールや判例を知ることができるようになったこと。もうひとつは賃貸住宅の空き室が増え、部屋を借りる側のほうが有利になったこと。敷金を多く取ったり、戻さないような賃貸経営は成り立たなくなっているでしょう」(長谷川さん)。
敷金返還に関しては、自分できちんと調べて、交渉する姿勢が大事といえるでしょう。

相談件数の推移(出典:国民生活センター)※編集部が加工

(SUUMOジャーナルより)

敷金「返還義務」明文化へ…賃貸住宅退去トラブル

賃貸住宅で敷金を巡るもめ事が相次ぐため、民法が改正され、敷金の定義などが明文化される見通しになった。

 敷金トラブルの減少につながるとの期待もある。法改正の方向性を理解しつつ、賃貸住宅の契約内容や生活上のルールも把握して、快適に賃貸暮らしを楽しみたい。

 敷金について明確な定義はないが、一般的には、賃貸住宅に入居する際、賃料などの債務の担保として家主に払うお金を指す。不動産・住宅情報サイト「HOME’S」によると、首都圏の平均敷金は家賃約1か月分だ。敷金は退去時に返還されるべきものだが、実際は住宅の原状回復費用を敷金で精算することが多く、敷金が返還されなかったり、どこまで費用を負担するかなどでもめたりする。

 近年は敷金や礼金がかからない「ゼロゼロ物件」が目立つ。入居時の費用が抑えられるメリットに加え、退去時の敷金トラブルとも無縁と思われがち。だが、契約事項に「退去時、借り主が掃除代を全額負担する」などの特約が設けられる場合が多く、想定外の出費がかかることもある。

 建設省(現国土交通省)は1998年、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定した=表〈1〉=。畳の日焼けによる変色など、注意していても発生する劣化や汚れは、借り主の負担する費用の対象にならないといった指針を示した。東京都も、同様の指針を盛り込んだ条例を2004年、施行している。

 それでも、トラブルは多い。国民生活センターのまとめでは、敷金や原状回復を巡る相談はここ数年、年1万件以上で推移。今年度は6165件(9月末まで)と、前年同期に比べ微増だ=グラフ=。

 こうした状況を受け、今年8月、政府の法制審議会の部会が民法の契約に関する規定を抜本改正する案をまとめ、敷金の定義や返還の範囲をルール化した=表〈2〉=。

 改正案では、敷金を「家賃の担保とし、契約終了時に返還義務が発生する」と定義。また、借り主は通常の使用による傷や経年劣化を修理する必要がないとも定めた。改正案は、来年の通常国会に提出される見込みだ。

 改正案について、賃貸住宅のトラブル解決を図るNPO法人、日本住宅性能検査協会(東京)理事長の大谷昭二さんは「借り主に分かりやすいルールが示されることで、トラブルが減少すると予想される」と評価する。法に定義づけることで、強制力のないガイドラインより、借り主に有利に働くことも期待される。

 とはいえ、賃貸住宅の契約内容をきちんと理解することの重要性は変わらない。「退去時の部屋の掃除代、鍵の交換代といった特約など、内容をよく読んだ上で入居することが大事」と、国民生活センターの担当者は指摘する。

 不動産・住宅事情を調査する、HOME’S総合研究所(東京)のチーフアナリスト、中山登志朗さんも「契約書を見たその場で押印するのではなく、契約書のコピーをもらって一晩考える。疑問に思う事項があったら説明を求めるなど、納得いくまで確認して」と助言する。

 【表〈1〉】「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に示された修繕の分担例

 <家主負担になる例>

 壁に貼ったポスターや絵画の跡

 クロスや畳の日照による変色

 家具の設置でできた床のへこみ、設置跡

 エアコンの設置による壁の穴や跡

 <借り主負担になる例>

 引っ越しで生じた傷

 鍵の紛失や破損による取り換え

 落書きなど故意の損傷

 喫煙によるクロスの変色、臭いの付着

 【表〈2〉】敷金に関する民法改正案の特徴

 敷金を「家賃の担保」と定義

 契約が終了し、物件を引き渡した時に、返還義務が生じる

 通常の使用による室内の傷みや経年変化などについて、借り主は原状回復の義務を負わない

 (民法・債権関係の改正に関する要綱仮案を基に作成)

(TOMIURI ONLINEより)

退去時の掃除は、どこまでやればいい?敷金返還と原状回復の関係

賃貸住宅の退去時には掃除をするのは当たり前ですが、いったいどの程度の掃除をすればいいのでしょうか。キッチンの油汚れや水回りの水垢などは、きちんと掃除しておくことで、敷金返還にプラスとなることもあるようです。

退去時の掃除と敷金返還の関係

退去時の掃除と敷金との関係を考えるにあたって、まずは、敷金について確認しておきましょう。敷金とは、家賃が滞納されたときや、原状回復に必要な費用が発生した場合に備えて、部屋の借主が貸主に対してあらかじめ「預けておく」お金のことです。預けたお金なのですから、退去時には返還されます。

ただし、必ずしも全額が返還されるとは限りません。多くの場合、退去時に原状回復にかかる費用が差し引かれ、その残額が借主の手に戻されるのです。注意が必要なのは、原状回復義務の定義があいまいなこと。国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という、借主の原状回復費用負担に関する指針を発表しているのですが、法的強制力はありません。

このため、「どの程度の掃除をすれば十分なのか」「掃除の有無が敷金返還に影響を及ぼすのか」を一口に言い切ることができないのが現状です。原状回復義務が発生する場所や損傷の度合い、借主の費用負担に関しては、賃貸契約書を確認するか、不動産管理会社、大家さんに問い合わせてみるといいでしょう。

畳やクロスの変色は原状回復しなくてもOK

とはいえ、退去時に必要な掃除についてある程度の知識を持っておくことも大切です。そこで、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に記載されている、原状回復費用の負担に関する内容を簡単にまとめてみました。

一般的に、「フローリングの色落ち」「畳やクロスの変色」「家具の設置による床、カーペットのへこみ」「電気ヤケ」などは、借主が部屋を通常に使用している中で発生する損耗とされ、原状回復にかかる費用は発生しないとされています。つまり、畳やクロスの変色などについては修復しなくても、敷金が減少することはないということ。

こういった損耗を汚れと勘違いして自己流で掃除をしてしまうと、逆に変色が悪化する可能性もあります。この場合、通常の生活で発生する損耗として扱われずに、原状回復義務が発生してしまう可能性があるので、注意してください。

台所の油汚れなどは掃除することで敷金返還のプラス材料に

一方、このガイドラインでは、「台所の油汚れ」や「ガスコンロ置き場、換気扇の油汚れ」「風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ」などについては、「通常使用による損耗」にあたる場合と、そうでない場合があるとしています。

例えば、台所の油汚れを掃除せずに放っておき、さらにひどい汚れとなった場合などには、原状回復にかかる費用を負担しなければならなくなる可能性があるということ。「台所の油汚れ」や「ガスコンロ置き場、換気扇の油汚れ」「風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ」については、退去時までにきちんと掃除をしておいたほうがよいでしょう。綺麗に掃除することで、敷金の返還額がプラスになることも考えられます。

毎月賃料を支払って住んでいるとはいえ、賃貸住宅は他人の財産でもあります。退去時にはできるだけ綺麗な状態でお返しするのがマナー。汚れを放置すると元通りにするのが難しくなるので、日頃からこまめな掃除を心掛けましょう。

(ズバッと「引越し比較」から)

貸主負担、借り主負担はどこが違う?

 

見た目に同じような損耗等でも、その原因によって貸主、借り主のいずれが負担するかは異なってきます。ここでは、具体的な事例に基づき、貸主負担、借り主負担の違いを見ていきましょう。

貸主負担、借り主負担はどこが違う?(一般的な例で、必ず当てはまるとは限らない)

※賃貸住宅トラブル防止ガイドライン(東京都)、原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)を元に作成

貸主負担 借り主負担
冷蔵庫跡の壁の黒ずみなど
冷蔵庫の後部壁面にできる黒ずみ、いわゆる電気ヤケは通常の使用をしていても発生するものなので、貸主が負担します。同様にテレビの後部壁面の黒ずみも通常損耗と見なされ、貸主の負担となります。
冷蔵庫下のサビ跡など
サビを放置したために跡が残ってしまった場合には、借り主が適切に対処しなかったことも原因と考えられるので、借り主が負担します。
カーペットの家具跡など
家具を設置したことで床、カーペットがへこんだり、跡が付いたりした場合、室内に家具を置くのは通常の生活に必要なので、通常損耗とされ、貸主の負担になります。
フローリングの傷など
引っ越し作業やキャスター付きの椅子などを引きずって付いた傷やへこみなど、借り主が注意していれば防げたであろう損耗等については、借り主の負担となり ます。同じように、飲み物などをこぼしたことで発生したシミ、カビについても、借り主が適切に対処しなかったことが原因と考えられるので、借り主の負担と なります。
画びょう、ピン等の穴など
下地ボードの張り替えが不要な程度のものであれば、通常損耗と見なされ、貸主負担となります。
くぎ穴、ねじ穴など
下地ボードの張り替えが必要な程度の穴になると、通常の使用を超えたものと見なされ、借り主負担となります。
タバコのヤニ
清掃で除去できる程度であれば通常損耗とされ、貸主の負担となります。ガスコンロ置場や換気扇の油汚れなども同様に、清掃で除去できる程度であれば通常損耗と見なされます。
タバコのヤニ
清掃で除去できないほど汚れている場合には、通常損耗とは言えず、借り主の負担となります。ガスコンロ置場や換気扇の油汚れなども同様で、手入れが悪く油汚れが付着したと判断される場合には借り主の負担になります。
畳、クロスの変色など
日照など自然現象によって起こる畳の変色、壁や天井のクロスの変色については通常損耗と考えられ、貸主の負担となります。
結露によるカビ、シミなど
結露の発生自体は借り主の責任によるものではないものの、結露を放置したことによってカビ、シミが拡大したと考えられる場合は、通常の使用を超えるものとして借り主の負担となります。
そのほか、貸主の負担とされるのは、
・専門業者によるハウスクリーニング(借り主が通常の生活、清掃を行っていた場合)
・トイレの消毒
・エアコン設置による壁のビス穴、跡など
・フローリングのワックス掛け
・破損等はしていないが、次の入居者確保のために行う網戸の張り替え
・機器の耐用年数到来、経年劣化による自然損耗の結果としての設備機器の破損、使用不能
・特に破損等はしていないが、次の入居者確保のために行う畳の裏返し、表替え
などが挙げられます。ただし、いずれも契約内容や使用状況によって異なるので、個別に貸主・借り主との間での協議が必要です。
そのほか、借り主の負担とされるのは、
・風呂やトイレ、洗面台の水垢やカビなど、使用期間中に清掃や手入れを怠った結果、汚損が生じたもの
・他に傷をつけない手段があったにもかかわらず、天井に直接つけた照明器具の跡
・子どもやペットがつけた柱の傷や落書き
などが挙げられます。

借り主の負担する範囲は?

畳に焼け焦げを作ってしまった場合には、借り主に責任がありますから、畳を交換する費用を負担することになります。しかし、和室で1枚だけ畳を変え ると、色が違ってしまって見た目が悪いという問題が生じます。その場合、借り主はどこまでを負担すればよいのかは判断に悩むところです。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(改訂版)では、このような場合を想定し、原状回復は、毀損等の補修工事が可能な最小単位を基本 にするとしており、畳であれば原則は1枚単位、壁のクロスは1㎡単位、ふすまは1枚単位、柱は1本単位などとしています。その他、負担の単位を表示できな いものもありますから、詳細についてはガイドラインを参照してください。

国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」はこちら外部サイトへ

※掲載情報は【不動産ジャパン】外部サイトへサイトより転記しています。

原状回復の範囲とは?

問題となるのが「原状回復」です。通常、賃貸借契約書の中には、賃貸借契約が終了して物件を明け渡す場合において、賃借人が当該物件を原状回復しなければならない旨の条項が盛り込まれています。つまり、建物の賃貸借契約が終了する場合、「当該建物を原状に復して引き渡す」というのが基本的な考え方であり、この費用については賃借人の負担となることから、それが適正な金額である限りにおいて、上記のように敷金から差し引くことが可能となるわけです。

 しかし、原状回復がどのような状態をいうのかについては必ずしも明らかではなく、賃借人が負担すべき原状回復費用の範囲も不明確な点があります。

 前述のように、最初に借りた時と同じ状態にすることまで、原状回復の内容となり、賃借人の義務とされるとすれば、その金額は非常に高額となり、敷金だけでは到底まかないきれなくなる可能性がでてきます。いつの間にか敷金は没収され、さらに費用を請求されるという事態にまでなるわけです。

 そこで、国土交通省は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表し、原状回復に関する紛争予防を図っています。同ガイドラインは、平成23年8月に改訂されて、より充実した内容となっており、このガイドラインの考え方を前提としてご説明したいと思います。

 まず、ガイドラインは、冒頭において次のように説明しています。
「建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過により減少するものであること、また、物件が、契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すれば良いとすることが学説・判例等の考え方であることから、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし、原状回復を『賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること』と定義して、その考え方に沿って基準を策定した。」

 つまり、大原則として、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとし、家主は賃借人にそれを請求できないし、敷金から差し引くこともできないということです。

 家主側は、賃借人の使用に伴って発生した汚れの完全な除去を求めて、その費用を請求してくることがあります。しかし、賃借人側としては上記のように、「原状回復は賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」ことを前提に交渉すべきということです。

経年変化・通常損耗=家主負担、それ以外=賃借人負担が原則

建物価値の減少に関わる損耗の種別

<1> 建物・設備等の自然な劣化・損耗等(経年変化)
<2> 賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
<3> 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等

まず、発生した建物価値の減少が、<1>や<2>に該当する場合に、その減少分を復旧する費用は、賃貸人が賃料の中に組み込んで受領していると考え、賃借人が負担するものではないとされます。つまり、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化または価値の減少を意味する通常損耗にかかわる投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませて、その支払いを受けることにより行われていると考えられるわけです。

 それに対し、<3>については、賃借人の行為等によって特に損耗してしまった箇所を、居住年数も加味したうえで、通常損耗する程度に復旧する費用は賃借人が負担するということになります。ここで注意すべきは、<3>に該当する損耗であっても、原状回復費用として賃借人が負担するのは、経年変化や通常損耗分の復旧費用分は除くということです。

 ちょっと分かりにくいですが、100の価値のある建物に3年住んだ場合に、経年変化や通常損耗の結果、建物価値が70になるとします。そして、賃借人の行為が付加されて、この価値が50に減少したとすると<3>に区分され、50から70に復旧する費用は賃借人が負担するということです。決して、50から100まで復旧する費用全部を賃借人が負担するわけではありません。

 なお、賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものであっても、その後の手入れなど賃借人の管理が悪く、損耗が発生・拡大したと考えられるものは、損耗の拡大について、賃借人に善管注意義務違反等があると考えられます。その増加分の原状回復費用については賃借人が負担するとされていますので注意が必要です。例えば、クーラーから水漏れしたが、賃借人が放置したため、壁が腐食した場合、腐食した壁を補修する費用は賃借人が負担するといった場合がこれに該当します。