少額訴訟制度とは?

1-1. 少額訴訟制度とは? (しょうがくそしょうせいどとは?) 
 少額訴訟制度は、60万円以下の金銭の支払いの請求を目的とする少額の紛争について、 その紛争額に見合った費用と時間で紛争を解決するための、新たな訴訟制度です。 通常の訴訟とは異なり、簡易・迅速な解決を図るための特別な手続が用意されており、 原則として一回の口頭弁論で審理を終え、その日のうちに判決の言渡しもなされます。 また、弁護士に訴訟を委任しなくとも、本人自身で訴訟を追行できるよう工夫されています。 少額訴訟制度は施行から数年が経とうとしていますが、実際、弁護士が 代理しているケースはほとんどありません。まさに「一般市民にとって最も身近で利用しやすく、 分かりやすい裁判手続」と言うことができます。 

1-2. 創設の経緯 (そうせつのけいい) 
 アメリカやイギリスなどの諸外国では、かなり以前から少額な金銭の民事紛争を処理する機関が つくられ、それなりの効果をあげています。それでは、なぜ今まで(1998年創設まで)日本においてこのような制度が創設されなかったのでしょうか? 
 実は、日本でも、旧民事訴訟法下において、訴額が90万円以下の少額な民事事件を簡易・迅速に 解決するため、簡易裁判所において特別な規則を設けていました。しかしその後の経過の中で、簡易 裁判所は、地方裁判所の手続とほとんど変わりのないものとなってしまい、そのため少額な 金銭の支払いを求める紛争では、訴訟を起こしてもその労力と費用がペイされず、多くの人は結局 泣き寝入りを強いられるといった状況になってしまいました。そこで、もう一度簡易裁判所の理念を見直し、簡裁を 一般市民にとってより身近で利用しやすいものとするため、市民間の少額な民事紛争を、簡易・迅速に 解決する訴訟制度を設けようということになり、1998年1月1日新民事訴訟法の施行により少額訴訟制度がスタートすることとなりました。 

2-1. 少額訴訟の対象 (しょうがくそしょうのたいしょう) 
 訴額(相手方に対して支払いを求める価額)が60万円以下で、かつ金銭の請求を目的とする訴えに限られます(民訴368Ⅰ)。 したがって訴額が60万円以下であっても、不動産・動産の明渡し・引渡し、登記手続の意思表示の擬制、債務不存在確認訴訟などは、少額訴訟の対象とはなりません。 
 少額訴訟の対象となる具体的なケースとしては、以下のようなものがあげられます。 
 (1) 敷金返還請求、 
 (2) 貸金返還請求、 
 (3) 賃金請求、 
 (4) 売掛金(売買代金)請求、 
 (5) 解雇予告手当請求、 
 (6) 交通事故(物損)による損害賠償請求、 
 (7) 非交通事故関係の損害賠償請求、 
 (8) 請負代金請求、 etc… 

2-2. 一部請求 (いちぶせいきゅう) 
 一部請求(80万の債権の内の60万についてだけ少額訴訟で訴える等)については、 訴えの提起の仕方で扱いが異なってくるため、専門家(弁護士・司法書士)の方々に相談することをおすすめします。 

2-3. 利用回数制限 (りようかいすうせいげん) 
 少額訴訟は、一人の原告につき、同一の簡易裁判所において、年10回までに限られます(民訴368Ⅰ但書)。 金融業者や取立業者などが債権取り立てのために少額訴訟を独占し、一般市民の利用が阻害されてしまわないよう、 このような利用回数制限が設けられました。少額訴訟を提起し、その後訴えを取下げた場合や、 通常訴訟に移行してしまった場合なども、一回として数えられます。 

2-4. 利用回数制限違反 (りようかいすうせいげんいはん) 
 少額訴訟を提起する際、その簡易裁判所において少額訴訟による審理および裁判を求めた回数を 届け出なければなりません。原告が10回を超えて少額訴訟による審理および裁判を求める申述を した場合、または原告が利用回数の届出をせず、裁判所からの利用回数届出の命令にも応じない場合 、裁判所は訴訟を通常手続に移行する決定をします(民訴373Ⅲ①②)。また、原告が利用回数に 関して虚偽の届出をした場合、10万円以下の過料に処せられます(民訴381Ⅰ)。 

3-1. 少額訴訟の提起にかかる費用 (ていきにかかるひよう) 
 少額訴訟の提起においてかかる主な費用は、裁判所へ納める申立て手数料と、郵券代です。 

(1) 申し立て手数料
 少額訴訟を提起する際には、裁判所へ申し立ての手数料を納めなければなりません。  この申し立て手数料は、訴状に額面分の収入印紙を貼って納めます。  申し立て手数料は、訴額(相手方に対して支払いを求める価額)に応じて加算されます。  訴額とは、相手方に対して支払いを求める価額のことで、遅延損害金や利息等は含めません。 
 申し立て手数料は、具体的には次のように定められています。 
  訴額が100万円までの部分→その価額10万円までごとに1000円 
  訴額が100万円を超える部分→その価額20万円までごとに1000円 
分かりにくいので、表にしてみました。以下のとおりです。 
(円)

訴額 ~10万 ~20万 ~30万 ~40万 ~50万 ~60万
手数料 1000 2000 3000 4000 5000 6000
訴額 ~70万 ~80万 ~90万 ~100万 ~120万 ~140万
手数料 7000 8000 9000 10000 11000 12000



(2) 郵券代
 郵券とは切手のことで、必要分の切手を購入して切手を裁判所へ提出します。  この郵券は、訴状の送達や、呼出状、判決の送付などに使用されます。  訴訟が終了した後に、郵券が使用されずにあまれば、申立人に返却されます。  この郵券代は、だいたい3000~5000円程度ですが、 この郵券の総額及び内訳は、管轄の裁判所によって異なり、 また原告及び被告の人数によって加算されますので、 必ず訴えを提起する裁判所へ確認して下さい。 
 参考までに、東京簡易裁判所の取り扱いは下記のとおりです (ただし変動がありえますので、必ず裁判所へお問い合わせ下さい)。 

* 東京簡易裁判所の少額訴訟の予納郵券
 原告及び被告がそれぞれ1人の場合→3910円分の切手を納める。
 原告、被告がそれぞれ1名増すごとに2100円の切手が必要。 
  3910円の切手の内訳
   500円切手→5枚
   200円切手→2枚
   100円切手→4枚
   80円切手→5枚
   20円切手→8枚
   10円切手→5枚 

3-2. 相手方に請求できる訴訟費用 (そしょうひよう) 
 『訴訟費用』は原則として敗訴者の負担となります(民訴61条)。  よって敗訴者が決まる前(訴え提起の時点)では原告が立て替えるかたちになります。  『訴訟費用』には、手数料(収入印紙代)、予納郵券代、訴状の作成費、 証人を呼ぶ場合にかかる旅費など、が含まれます。  ただし、弁護士費用や、訴状作成を司法書士に依頼した場合の費用などは 『訴訟費用』には含まれず、原則として当事者各自での負担となります。  その他、算出が不明瞭な細かな費用(細かな交通費・電話代等)も 当事者各自の負担になる場合があり、注意が必要です。  なお、判決を下す場合には、裁判所は訴訟費用の負担に関する判断をも することになっていますが、訴状の「請求の趣旨」のところに、 「訴訟費用は被告の負担とする」 と記載し、実際に求める訴訟費用の細かな内訳 についても記載しておきましょう。  この点に関しては具体的な事例に沿った判断も必要ですので、 簡易裁判所でよく相談しましょう。 

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