賃貸住宅で敷金を巡るもめ事が相次ぐため、民法が改正され、敷金の定義などが明文化される見通しになった。
敷金トラブルの減少につながるとの期待もある。法改正の方向性を理解しつつ、賃貸住宅の契約内容や生活上のルールも把握して、快適に賃貸暮らしを楽しみたい。
敷金について明確な定義はないが、一般的には、賃貸住宅に入居する際、賃料などの債務の担保として家主に払うお金を指す。不動産・住宅情報サイト「HOME’S」によると、首都圏の平均敷金は家賃約1か月分だ。敷金は退去時に返還されるべきものだが、実際は住宅の原状回復費用を敷金で精算することが多く、敷金が返還されなかったり、どこまで費用を負担するかなどでもめたりする。
近年は敷金や礼金がかからない「ゼロゼロ物件」が目立つ。入居時の費用が抑えられるメリットに加え、退去時の敷金トラブルとも無縁と思われがち。だが、契約事項に「退去時、借り主が掃除代を全額負担する」などの特約が設けられる場合が多く、想定外の出費がかかることもある。
建設省(現国土交通省)は1998年、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定した=表〈1〉=。畳の日焼けによる変色など、注意していても発生する劣化や汚れは、借り主の負担する費用の対象にならないといった指針を示した。東京都も、同様の指針を盛り込んだ条例を2004年、施行している。
それでも、トラブルは多い。国民生活センターのまとめでは、敷金や原状回復を巡る相談はここ数年、年1万件以上で推移。今年度は6165件(9月末まで)と、前年同期に比べ微増だ=グラフ=。
こうした状況を受け、今年8月、政府の法制審議会の部会が民法の契約に関する規定を抜本改正する案をまとめ、敷金の定義や返還の範囲をルール化した=表〈2〉=。
改正案では、敷金を「家賃の担保とし、契約終了時に返還義務が発生する」と定義。また、借り主は通常の使用による傷や経年劣化を修理する必要がないとも定めた。改正案は、来年の通常国会に提出される見込みだ。
改正案について、賃貸住宅のトラブル解決を図るNPO法人、日本住宅性能検査協会(東京)理事長の大谷昭二さんは「借り主に分かりやすいルールが示されることで、トラブルが減少すると予想される」と評価する。法に定義づけることで、強制力のないガイドラインより、借り主に有利に働くことも期待される。
とはいえ、賃貸住宅の契約内容をきちんと理解することの重要性は変わらない。「退去時の部屋の掃除代、鍵の交換代といった特約など、内容をよく読んだ上で入居することが大事」と、国民生活センターの担当者は指摘する。
不動産・住宅事情を調査する、HOME’S総合研究所(東京)のチーフアナリスト、中山登志朗さんも「契約書を見たその場で押印するのではなく、契約書のコピーをもらって一晩考える。疑問に思う事項があったら説明を求めるなど、納得いくまで確認して」と助言する。
【表〈1〉】「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に示された修繕の分担例
<家主負担になる例>
・壁に貼ったポスターや絵画の跡
・クロスや畳の日照による変色
・家具の設置でできた床のへこみ、設置跡
・エアコンの設置による壁の穴や跡
<借り主負担になる例>
・引っ越しで生じた傷
・鍵の紛失や破損による取り換え
・落書きなど故意の損傷
・喫煙によるクロスの変色、臭いの付着
【表〈2〉】敷金に関する民法改正案の特徴
・敷金を「家賃の担保」と定義
・契約が終了し、物件を引き渡した時に、返還義務が生じる
・通常の使用による室内の傷みや経年変化などについて、借り主は原状回復の義務を負わない
(民法・債権関係の改正に関する要綱仮案を基に作成)
(TOMIURI ONLINEより)