契約の成立2

申込書を提出し、手付金も支払っていたのに、後日、家主から、
「都合で入居できなくなったが、まだ契約書を交わしていないので、
預かった手付金を返却する」という連絡が入った。
現在、住んでいる物件の退去通知も行ったため、
いまさら契約できないといわれても困るのだが、何とかならないか?

(回答)

契約が成立するには、家主の承諾が必要ですが、
契約書への双方の署名・捺印がなければ契約が成立しないというわけではありません。
したがって、家主から契約を解除するには、手付金の倍返しを行う義務があります。

契約書は、契約した内容を双方が覚えておくための書類だということを、
家主にきちんと理解してもらい、手付金の倍返しを行うように交渉してください。

契約の成立1

申込書を提出し、手付金も支払っていたのに、後日、仲介業者から、
「家主の都合で入居できなくなったので、手付金の倍返しを行って解約する」という連絡が入った。
現在、住んでいる物件の退去通知も行ったため、
いまさら契約できないといわれても困るのだが、何とかならないか?

(回答)

手付金を支払っていたということは、家主が契約の承諾していたという前提がありますので、
契約が成立していたということです。

その場合、家主がカギを渡すとか、借主が契約金の全額を支払っていた
(契約の履行に着手していた)ということがなければ、解約手付けとして、
家主は、預かった手付金を返し、さらに同額を借主に支払う(手付金の倍返し)ことで、
契約を解除することができるのです。

逆に言えば、家主が手付金の倍返しを行えば、それ以上の責任を逃れることができますので、
借主としては、他の物件を探すしかないのです。

敷金「返還義務」明文化へ…賃貸住宅退去トラブル

賃貸住宅で敷金を巡るもめ事が相次ぐため、民法が改正され、敷金の定義などが明文化される見通しになった。

 敷金トラブルの減少につながるとの期待もある。法改正の方向性を理解しつつ、賃貸住宅の契約内容や生活上のルールも把握して、快適に賃貸暮らしを楽しみたい。

 敷金について明確な定義はないが、一般的には、賃貸住宅に入居する際、賃料などの債務の担保として家主に払うお金を指す。不動産・住宅情報サイト「HOME’S」によると、首都圏の平均敷金は家賃約1か月分だ。敷金は退去時に返還されるべきものだが、実際は住宅の原状回復費用を敷金で精算することが多く、敷金が返還されなかったり、どこまで費用を負担するかなどでもめたりする。

 近年は敷金や礼金がかからない「ゼロゼロ物件」が目立つ。入居時の費用が抑えられるメリットに加え、退去時の敷金トラブルとも無縁と思われがち。だが、契約事項に「退去時、借り主が掃除代を全額負担する」などの特約が設けられる場合が多く、想定外の出費がかかることもある。

 建設省(現国土交通省)は1998年、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定した=表〈1〉=。畳の日焼けによる変色など、注意していても発生する劣化や汚れは、借り主の負担する費用の対象にならないといった指針を示した。東京都も、同様の指針を盛り込んだ条例を2004年、施行している。

 それでも、トラブルは多い。国民生活センターのまとめでは、敷金や原状回復を巡る相談はここ数年、年1万件以上で推移。今年度は6165件(9月末まで)と、前年同期に比べ微増だ=グラフ=。

 こうした状況を受け、今年8月、政府の法制審議会の部会が民法の契約に関する規定を抜本改正する案をまとめ、敷金の定義や返還の範囲をルール化した=表〈2〉=。

 改正案では、敷金を「家賃の担保とし、契約終了時に返還義務が発生する」と定義。また、借り主は通常の使用による傷や経年劣化を修理する必要がないとも定めた。改正案は、来年の通常国会に提出される見込みだ。

 改正案について、賃貸住宅のトラブル解決を図るNPO法人、日本住宅性能検査協会(東京)理事長の大谷昭二さんは「借り主に分かりやすいルールが示されることで、トラブルが減少すると予想される」と評価する。法に定義づけることで、強制力のないガイドラインより、借り主に有利に働くことも期待される。

 とはいえ、賃貸住宅の契約内容をきちんと理解することの重要性は変わらない。「退去時の部屋の掃除代、鍵の交換代といった特約など、内容をよく読んだ上で入居することが大事」と、国民生活センターの担当者は指摘する。

 不動産・住宅事情を調査する、HOME’S総合研究所(東京)のチーフアナリスト、中山登志朗さんも「契約書を見たその場で押印するのではなく、契約書のコピーをもらって一晩考える。疑問に思う事項があったら説明を求めるなど、納得いくまで確認して」と助言する。

 【表〈1〉】「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に示された修繕の分担例

 <家主負担になる例>

 壁に貼ったポスターや絵画の跡

 クロスや畳の日照による変色

 家具の設置でできた床のへこみ、設置跡

 エアコンの設置による壁の穴や跡

 <借り主負担になる例>

 引っ越しで生じた傷

 鍵の紛失や破損による取り換え

 落書きなど故意の損傷

 喫煙によるクロスの変色、臭いの付着

 【表〈2〉】敷金に関する民法改正案の特徴

 敷金を「家賃の担保」と定義

 契約が終了し、物件を引き渡した時に、返還義務が生じる

 通常の使用による室内の傷みや経年変化などについて、借り主は原状回復の義務を負わない

 (民法・債権関係の改正に関する要綱仮案を基に作成)

(TOMIURI ONLINEより)

退去時の掃除は、どこまでやればいい?敷金返還と原状回復の関係

賃貸住宅の退去時には掃除をするのは当たり前ですが、いったいどの程度の掃除をすればいいのでしょうか。キッチンの油汚れや水回りの水垢などは、きちんと掃除しておくことで、敷金返還にプラスとなることもあるようです。

退去時の掃除と敷金返還の関係

退去時の掃除と敷金との関係を考えるにあたって、まずは、敷金について確認しておきましょう。敷金とは、家賃が滞納されたときや、原状回復に必要な費用が発生した場合に備えて、部屋の借主が貸主に対してあらかじめ「預けておく」お金のことです。預けたお金なのですから、退去時には返還されます。

ただし、必ずしも全額が返還されるとは限りません。多くの場合、退去時に原状回復にかかる費用が差し引かれ、その残額が借主の手に戻されるのです。注意が必要なのは、原状回復義務の定義があいまいなこと。国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という、借主の原状回復費用負担に関する指針を発表しているのですが、法的強制力はありません。

このため、「どの程度の掃除をすれば十分なのか」「掃除の有無が敷金返還に影響を及ぼすのか」を一口に言い切ることができないのが現状です。原状回復義務が発生する場所や損傷の度合い、借主の費用負担に関しては、賃貸契約書を確認するか、不動産管理会社、大家さんに問い合わせてみるといいでしょう。

畳やクロスの変色は原状回復しなくてもOK

とはいえ、退去時に必要な掃除についてある程度の知識を持っておくことも大切です。そこで、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に記載されている、原状回復費用の負担に関する内容を簡単にまとめてみました。

一般的に、「フローリングの色落ち」「畳やクロスの変色」「家具の設置による床、カーペットのへこみ」「電気ヤケ」などは、借主が部屋を通常に使用している中で発生する損耗とされ、原状回復にかかる費用は発生しないとされています。つまり、畳やクロスの変色などについては修復しなくても、敷金が減少することはないということ。

こういった損耗を汚れと勘違いして自己流で掃除をしてしまうと、逆に変色が悪化する可能性もあります。この場合、通常の生活で発生する損耗として扱われずに、原状回復義務が発生してしまう可能性があるので、注意してください。

台所の油汚れなどは掃除することで敷金返還のプラス材料に

一方、このガイドラインでは、「台所の油汚れ」や「ガスコンロ置き場、換気扇の油汚れ」「風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ」などについては、「通常使用による損耗」にあたる場合と、そうでない場合があるとしています。

例えば、台所の油汚れを掃除せずに放っておき、さらにひどい汚れとなった場合などには、原状回復にかかる費用を負担しなければならなくなる可能性があるということ。「台所の油汚れ」や「ガスコンロ置き場、換気扇の油汚れ」「風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビ」については、退去時までにきちんと掃除をしておいたほうがよいでしょう。綺麗に掃除することで、敷金の返還額がプラスになることも考えられます。

毎月賃料を支払って住んでいるとはいえ、賃貸住宅は他人の財産でもあります。退去時にはできるだけ綺麗な状態でお返しするのがマナー。汚れを放置すると元通りにするのが難しくなるので、日頃からこまめな掃除を心掛けましょう。

(ズバッと「引越し比較」から)

貸主負担、借り主負担はどこが違う?

 

見た目に同じような損耗等でも、その原因によって貸主、借り主のいずれが負担するかは異なってきます。ここでは、具体的な事例に基づき、貸主負担、借り主負担の違いを見ていきましょう。

貸主負担、借り主負担はどこが違う?(一般的な例で、必ず当てはまるとは限らない)

※賃貸住宅トラブル防止ガイドライン(東京都)、原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)を元に作成

貸主負担 借り主負担
冷蔵庫跡の壁の黒ずみなど
冷蔵庫の後部壁面にできる黒ずみ、いわゆる電気ヤケは通常の使用をしていても発生するものなので、貸主が負担します。同様にテレビの後部壁面の黒ずみも通常損耗と見なされ、貸主の負担となります。
冷蔵庫下のサビ跡など
サビを放置したために跡が残ってしまった場合には、借り主が適切に対処しなかったことも原因と考えられるので、借り主が負担します。
カーペットの家具跡など
家具を設置したことで床、カーペットがへこんだり、跡が付いたりした場合、室内に家具を置くのは通常の生活に必要なので、通常損耗とされ、貸主の負担になります。
フローリングの傷など
引っ越し作業やキャスター付きの椅子などを引きずって付いた傷やへこみなど、借り主が注意していれば防げたであろう損耗等については、借り主の負担となり ます。同じように、飲み物などをこぼしたことで発生したシミ、カビについても、借り主が適切に対処しなかったことが原因と考えられるので、借り主の負担と なります。
画びょう、ピン等の穴など
下地ボードの張り替えが不要な程度のものであれば、通常損耗と見なされ、貸主負担となります。
くぎ穴、ねじ穴など
下地ボードの張り替えが必要な程度の穴になると、通常の使用を超えたものと見なされ、借り主負担となります。
タバコのヤニ
清掃で除去できる程度であれば通常損耗とされ、貸主の負担となります。ガスコンロ置場や換気扇の油汚れなども同様に、清掃で除去できる程度であれば通常損耗と見なされます。
タバコのヤニ
清掃で除去できないほど汚れている場合には、通常損耗とは言えず、借り主の負担となります。ガスコンロ置場や換気扇の油汚れなども同様で、手入れが悪く油汚れが付着したと判断される場合には借り主の負担になります。
畳、クロスの変色など
日照など自然現象によって起こる畳の変色、壁や天井のクロスの変色については通常損耗と考えられ、貸主の負担となります。
結露によるカビ、シミなど
結露の発生自体は借り主の責任によるものではないものの、結露を放置したことによってカビ、シミが拡大したと考えられる場合は、通常の使用を超えるものとして借り主の負担となります。
そのほか、貸主の負担とされるのは、
・専門業者によるハウスクリーニング(借り主が通常の生活、清掃を行っていた場合)
・トイレの消毒
・エアコン設置による壁のビス穴、跡など
・フローリングのワックス掛け
・破損等はしていないが、次の入居者確保のために行う網戸の張り替え
・機器の耐用年数到来、経年劣化による自然損耗の結果としての設備機器の破損、使用不能
・特に破損等はしていないが、次の入居者確保のために行う畳の裏返し、表替え
などが挙げられます。ただし、いずれも契約内容や使用状況によって異なるので、個別に貸主・借り主との間での協議が必要です。
そのほか、借り主の負担とされるのは、
・風呂やトイレ、洗面台の水垢やカビなど、使用期間中に清掃や手入れを怠った結果、汚損が生じたもの
・他に傷をつけない手段があったにもかかわらず、天井に直接つけた照明器具の跡
・子どもやペットがつけた柱の傷や落書き
などが挙げられます。

借り主の負担する範囲は?

畳に焼け焦げを作ってしまった場合には、借り主に責任がありますから、畳を交換する費用を負担することになります。しかし、和室で1枚だけ畳を変え ると、色が違ってしまって見た目が悪いという問題が生じます。その場合、借り主はどこまでを負担すればよいのかは判断に悩むところです。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(改訂版)では、このような場合を想定し、原状回復は、毀損等の補修工事が可能な最小単位を基本 にするとしており、畳であれば原則は1枚単位、壁のクロスは1㎡単位、ふすまは1枚単位、柱は1本単位などとしています。その他、負担の単位を表示できな いものもありますから、詳細についてはガイドラインを参照してください。

国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」はこちら外部サイトへ

※掲載情報は【不動産ジャパン】外部サイトへサイトより転記しています。

原状回復の範囲とは?

問題となるのが「原状回復」です。通常、賃貸借契約書の中には、賃貸借契約が終了して物件を明け渡す場合において、賃借人が当該物件を原状回復しなければならない旨の条項が盛り込まれています。つまり、建物の賃貸借契約が終了する場合、「当該建物を原状に復して引き渡す」というのが基本的な考え方であり、この費用については賃借人の負担となることから、それが適正な金額である限りにおいて、上記のように敷金から差し引くことが可能となるわけです。

 しかし、原状回復がどのような状態をいうのかについては必ずしも明らかではなく、賃借人が負担すべき原状回復費用の範囲も不明確な点があります。

 前述のように、最初に借りた時と同じ状態にすることまで、原状回復の内容となり、賃借人の義務とされるとすれば、その金額は非常に高額となり、敷金だけでは到底まかないきれなくなる可能性がでてきます。いつの間にか敷金は没収され、さらに費用を請求されるという事態にまでなるわけです。

 そこで、国土交通省は、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表し、原状回復に関する紛争予防を図っています。同ガイドラインは、平成23年8月に改訂されて、より充実した内容となっており、このガイドラインの考え方を前提としてご説明したいと思います。

 まず、ガイドラインは、冒頭において次のように説明しています。
「建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過により減少するものであること、また、物件が、契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すれば良いとすることが学説・判例等の考え方であることから、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし、原状回復を『賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること』と定義して、その考え方に沿って基準を策定した。」

 つまり、大原則として、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとし、家主は賃借人にそれを請求できないし、敷金から差し引くこともできないということです。

 家主側は、賃借人の使用に伴って発生した汚れの完全な除去を求めて、その費用を請求してくることがあります。しかし、賃借人側としては上記のように、「原状回復は賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」ことを前提に交渉すべきということです。

経年変化・通常損耗=家主負担、それ以外=賃借人負担が原則

建物価値の減少に関わる損耗の種別

<1> 建物・設備等の自然な劣化・損耗等(経年変化)
<2> 賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
<3> 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等

まず、発生した建物価値の減少が、<1>や<2>に該当する場合に、その減少分を復旧する費用は、賃貸人が賃料の中に組み込んで受領していると考え、賃借人が負担するものではないとされます。つまり、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化または価値の減少を意味する通常損耗にかかわる投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませて、その支払いを受けることにより行われていると考えられるわけです。

 それに対し、<3>については、賃借人の行為等によって特に損耗してしまった箇所を、居住年数も加味したうえで、通常損耗する程度に復旧する費用は賃借人が負担するということになります。ここで注意すべきは、<3>に該当する損耗であっても、原状回復費用として賃借人が負担するのは、経年変化や通常損耗分の復旧費用分は除くということです。

 ちょっと分かりにくいですが、100の価値のある建物に3年住んだ場合に、経年変化や通常損耗の結果、建物価値が70になるとします。そして、賃借人の行為が付加されて、この価値が50に減少したとすると<3>に区分され、50から70に復旧する費用は賃借人が負担するということです。決して、50から100まで復旧する費用全部を賃借人が負担するわけではありません。

 なお、賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生するものであっても、その後の手入れなど賃借人の管理が悪く、損耗が発生・拡大したと考えられるものは、損耗の拡大について、賃借人に善管注意義務違反等があると考えられます。その増加分の原状回復費用については賃借人が負担するとされていますので注意が必要です。例えば、クーラーから水漏れしたが、賃借人が放置したため、壁が腐食した場合、腐食した壁を補修する費用は賃借人が負担するといった場合がこれに該当します。

民法の大改正がいよいよ実現

民法の大改正がいよいよ年内に実現しそうです。1896年の現行民法制定以来、120年ぶりの改正とあって、様々なメディアで特集が組まれるなど、話題となっています。その内容は、相談者も指摘するように、極めて多岐にわたっており、「飲み屋のツケから逃げられない」「損害保険の保険金受取額が増加」「保証人の原則禁止」「敷金は原則返還」「認知症の高齢者が交わした契約は無効」など、一般のサラリーマンにも大きな影響がありそうです。

 この改正の発端は2009年10月の法務大臣からの諮問にあります。当時の千葉景子法務大臣(弁護士出身)が、「民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について、同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする等の観点から、国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい」と、民法改正を法制審議会に諮問し、同年11月から法制審議会民法(債権関係)部会において、民法のうち債権関係の規定について、契約に関する規定を中心として見直しが開始されたわけです。13年2月26日開催の同部会第71回会議では「民法(債権関係)改正に関する中間試案」が決定され、パブリック・コメントの手続きを経てさらなる審議が行われ、14年8月26日に開催された同部会第96回会議において、「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」が決定されて、同年9月8日に法務省から発表されるにいたりました。法務省は、今年2月ごろに予定される法制審議会の答申を受け、今年の通常国会への法案提出を目指しているということです。

敷金は原則返還

 マンションなどを賃貸する場合、家賃の1~3か月分程度の敷金が必要となることが多いですが、退去時に敷金が全く返ってこなかったり、ハウスクリーニング、クロス張り替え、畳表替えなどの原状回復費用として敷金以上の金額を請求されたりするトラブルが多く発生しています。独立行政法人国民生活センターには、敷金や原状回復に関するトラブルに関する相談が、2012年には1万4212件、13年も1万3916件寄せられているということです。

 敷金に関しては、民法には規定がなく、国土交通省が制定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」があるものの、遵守じゅんしゅしなくとも罰則が科せられるわけではありませんでした。

 そこで、要綱仮案では、敷金を「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と明確に定義付けた上で、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、「賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない」として、敷金の返還義務を規定しています。

 また、最高裁判所・平成17年12月16日判決が、「賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払いを内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払いを受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる」と判示しているように、判例では、通常の使用をした場合に生ずる劣化や通常損耗は原状回復義務には含まれないとされています。

 要綱仮案は、「賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」として、原状回復義務について、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と判例で示されていた内容を明確に規定することとなっています。

[国民生活センター] 賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブル

PIO-NETに寄せられた相談件数の推移

年度 2009 2010 2011 2012 2013 2014
相談件数 16,783 16,293 15,513 14,212 13,920 10,346(前年同期 10,361)

相談件数は2015年1月31日現在
※ここでは「借家」「賃貸アパート」「賃貸マンション」「間借り」などを「賃貸住宅」としています。

最近の事例

  • 娘が賃貸マンションの退去に際し、「備え付けのストーブの分解整備料金を請求する」と管理会社から言われた。娘と同様に寒冷地に住んでいるが、そのような話は聞いたことがない。支払い義務はあるだろうか。
  • 先日、10年以上住んだ築30年の賃貸アパートを退去した。立ち合い時に家主から、「支払い済みの敷金3カ月分を超える部分の修繕費を請求する」と言われた。納得がいかない。
  • 入居した賃貸アパートは、大雨の際に雨が排気口から吹き込むようで、その下に置いた荷物が濡れてしまう。にもかかわらず、大家がなかなか対応しない。
  • 1年7カ月住んだ賃貸マンションを退去した。大家から修繕費の請求書が届いたが、契約書の記載と異なるので、払いたくない。
  • 賃貸アパートを管理業者立ち合いで退去し、「補修費5万円」と言われたが、後日倍額の請求書が家主から届いた。当初の金額で支払いたい。
  • 5年間住んだ賃貸アパートを退去することになった。立会時に不動産業者から、「43万円の修理費を用意できなければ退去できない」と言われた。どうしたらよいか。
  • 賃貸マンションの契約をした。契約後に、前借主の残置物のエアコンと照明器具の撤去をしたが、撤去後の補修費用まで負担する義務があるだろうか。
  • 8年半居住した賃貸アパートを退去した。タバコを吸っていたということでクロスの張替え費用を請求されているが、契約書には書かれていないので払いたくない。
  • ペット禁止の賃貸アパートでフェレットを飼っていることがわかってしまい、退去することになった。敷金は家賃1カ月分を納めていたが、原状回復費として「規約違反をしたのだから」とさらに1カ月分を請求された。請求の根拠がわからず納得できない。
  • 賃貸アパートを退去したら、高額な修理代を請求された。「納得出来ない」と不動産屋に伝えたが連絡がない。どうしたらよいか。
  • ※「最近の事例」は、相談者の申し出内容をもとにまとめたものです。

国民生活センター 賃貸住宅の敷金、ならびに原状回復トラブル

[TBS]-民法改正で変わる生活、「敷金」返還スムーズに

民法改正で変わる生活、「敷金」返還スムーズに

私たちの生活に密着したルールが、まもなく変わろうとしています。例えばマンションの契約、DVDのレンタル、また飲食店のツケ払いに至るまで、生活の基本的なルールを定めている「民法」が120年ぶりに大改正。どのように変わるのでしょうか。

 おりしも引越しシーズン。男性が不動産業者と下見に訪れたのは都内にある築36年の物件です。

 「結構きれい、古いけど」(男性)
 「しっかりメンテナンスしてます」(業者)

 家賃は8万5000円。敷金・礼金は、それぞれ家賃の1か月分です。

 「退去の際にはクリーニングを行うので、敷金から通常であれば引かれるケースがほとんど」(業者)
 「どのくらい引かれる?」(男性)
 「こちらの広さだと半分以上は引かれる」(業者)

 「敷金」はアパートやマンションを借りるときに、貸主に預けるお金です。これは退去時に返還されるべきものですが、実際には住宅の「原状回復」の費用にあてられることが多い。「原状回復」の対象は、例えば「壁の落書き」のほか、経年変化による「長年置いていた家具のへこみ」や「日焼けによる壁紙の変色」も含まれます。

 この「敷金」をめぐっては、トラブルが後を絶ちません。国民生活センターによりますと、退去時「お金が戻ってこない」などの相談が年間およそ1万件以上寄せられています。

 都内在住の男性。1年ほど前、借りていた住宅を退出する際、貸主側から20万円以上請求されたといいます。

 「通常に(普通に使って)3年住んでいたという認識だった。数万円だと思っていたが、予想の2倍、3倍の請求額だったので驚いた」(敷金トラブルに遭った男性)

 その後、貸主側と交渉を重ね、男性が10万円を支払うことで和解したといいます。

 なぜ、こうしたトラブルが起こるのでしょうか。生活の基本的なルールを定めているこれまでの民法には、「原状回復」についてルールがないためです。そこで、今回の民法改正案では、「敷金」は契約の終了時、つまり引っ越す際に原則として「返還する」と明記されました。「経年変化」は貸主側の負担で直すことになりました。

 一方、「壁の落書き」などは、通常の使用による汚れを超えていると判断され、借主側の負担となりそうです。

 物件を探す人たちは・・・
 「借りる側も貸す側も、スムーズに物事が運ぶと思うのでルールはあった方が良い」
 「『こういうルールがあるから、してはダメ』とか自分の中で(判断)できるので、ルールはあった方が良い」

 不動産賃貸における「敷金」のトラブルについて、弁護士と協力し、解決にあたっている男性は・・・

 「『ハウスクリーニングはこの単価が妥当だ』と (民法に)書いているわけではないので、契約の時点でしっかり借りる人も、よくよく理解して契約しないと」(日本敷金診断士協会 土川保常務理事)

 不動産業者は今回の民法改正について・・・

 「消費者の意識が、今回の民法改正によって大きく変わることが予想される。民法改正後、敷金についてより一層細かく消費者に説明していく義務がある」(ietty 小川泰平社長)

 未払い金の「時効」に関するルールも変わります。これまで「飲食店のツケ払い」や滞納している「レンタルDVD代」などは1年で「時効」を迎えるなど、業種によってバラバラだった時効を原則5年に統一します。

 「1年で時効になるのが5年に。それなら賛成。時効は本当にありえない。借りた物は最後まで返さなくちゃ。お金ないなら飲まない方が良い 」(飲食店経営)
 「1年間で取れなかったツケを5年間追いかけ続けて取れるかと言ったら、相手の会社が潰れたりとかそうなるとあまり(改正も)意味がないかも」(飲食店経営)

 民法の改正案は、いまの国会での成立を目指すといいます。そして、2018年ごろまでに施行される見込みです。(05日23:13)