共益費

先日、管理会社より、急に共益費が値上げになると連絡がありました。
更新の際に値上げされたという話は聞いたことありますが、
契約期間内でも値上げに応じないといけないのでしょうか?

(回答)

「共益費」というのは、物件の共有部分(廊下・階段・ロビー・管理人室その他)の
維持に必要となる費用(管理人費用・電気代・水道代・清掃費など)を、
あらかじめ、入居者数(および専有面積)で按分して、家主が一方的に定めた費用です。

借主は、家主が一方的に定めた費用の支払いについて、
契約書で合意して入居しているわけです。

したがって、契約期間中は、家主が一方的に定めた費用を支払う義務はありますが、
逆に言えば、期間の途中での値上げは拒否することができます。

契約期間中でも、共益費の値上げに応じなければならないのは、
例えば、家主が関知することができない、電気代や水道代などの公共料金が
大幅な値上げが行われたような場合で、その値上げ分のアップをお願いされたときでしょう。

家賃と共益費の違いは、家賃は、合理的な根拠があろうがなかろうが、
家主が一方的に定めることができるのに対して、
共益費は、「共有部分にかかる実費を入居者数(専有面積割合)などで按分した金額」ですので、
合理的な根拠が必要不可欠だという点です。

今回のケースで言えば、家主側に対して、「共益費の算定根拠を明らかにし、
値上げ額が合理的なものかどうか、そして、従来の共益費が
不合理なものであったかどうかをきちんと確認させてほしい。
支払いたくないのではなく、納得できる説明がほしいのである。」というように主張してください。

そして、家主側から、共益費値上げに応じざるを得ないような特殊な事情
(従来の共益費そのものが実費負担額よりも非常に低い不合理なものであり、
今回の値上げで合理的なものになるということと、それに対する家主側の謝罪、
つまり、間違った請求をしていたために、結果的に、
契約期間中の値上げとなってしまった点についてのもの)があれば、
共益費の「値上げ」にも応じざるを得ないでしょう。

契約書に民法に反する規定が記載されていた場合について

契約書を見ると、民法に反する規程が書かれていました。これは、法律違反なので無視しても良いでしょうか?

民法に反する規程(任意規定と呼ぶものです)が特約として書かれている場合、原則として、特約が優先されてしまいます。

特約として認められないのは、殺人依頼契約とか人身売買契約など、公序良俗に反するような契約です。一般的な特約は、民法の規定と異なっていても無視できないのです。

「原状回復費用はすべて借主が負担する」という特約について

契約書を見ると「原状回復費用はすべて借主が負担する」という特約があります。これは従わなければならないのでしょうか?

本来、家主は、家賃という対価を得て物件を貸している以上、民法上、借主に対して、使用収益させる義務、つまり、借主が安全・快適な生活を送れるようにする努力義務があります。従って、通常は、修繕義務は家主が負うものとされています。

しかし、一般に、民法の規定と特約が反する場合、契約自由の原則(私的自治の原則)により、特約が有効となりますので、このような修繕費用の借主全面負担特約が有効かどうかという点が問題となります。

判例では、このような特約は、家主の修繕義務を免除する効果があるに過ぎず、それを越えて、借主に全面負担させるというような積極的な効果までは認められないとされています。このような特約が認められるためには、よほど特別な事情(ほとんどただ同然で長期間貸していたとか)が必要です。

従って、契約書にこのような特約があっても認められず、通常の借主の責任(故意・過失・善良なる管理者の注意義務違反)がなければ、特約に従う必要はありません。

「原状回復」とは、どこまでの状態まで戻すこと?

そもそも「原状回復」というのは、「入居当時の状態に戻す」ことなのでしょうか?

本来の「原状回復」の意味は、「物件に持ち込んだ物品の撤去義務」のことです。つまり、退去時には、室内に持ち込んだ家財道具を運び出したり、壁に貼ったポスター等はきちんと剥がして下さいということなのです。

ところが、家主や管理会社の多くは、「原状回復とは、入居当時の状態に戻すことである」というような拡大解釈を行っていることが多いのです。

借主は、退去の際、原状回復を行う義務を負っていますが、それには、次のポイントがあります。

  1. 借主に、故意・過失・善良なる管理者の注意義務違反があれば、原状回復の責任を負いますが、それらがなければ、責任を負いません。
    つまり、家主負担となります。ちなみに、「善良なる管理者の注意義務」とは、自分のもの以上に丁寧に取り扱う注意義務のことです。
  2. 「自然損耗」(通常損耗)は費用負担の必要がありません。「自然損耗」(通常損耗)というのは、「通常の生活」を行っているときに発生した汚損・破損のことであり、これらについては、国土交通省から、借主の責任ではないというガイドラインが示されています。
  3. 「経年劣化」(経年変化)も費用負担の必要がありません。「経年劣化」というのは、建物は、年数が経過すれば自然と傷んできます。入居者の責任ではありえませんので、経年劣化による汚損・破損も入居者負担とすることはできません。
  4. 「工事施工単位」(「最少施工単位」)も注意すべきです。例えば、クロスの一部を入居者が汚損してしまった場合、その部分については張替責任がありますが、張り替える責任のある範囲は、「最少施工単位」、つまり、汚損のある部分の張替部分を含んで職人さんが来てくれる最小限度の範囲となります。
    通常は、クロスなどの場合は1枚単位です。ところが、家主や管理会社は、「1枚だけ変えると色違いが発生するので、全面張替えする」というような主張を行うことが多いのですが、色違いをなくすのは、次の入居者確保のために家主が行うことですので、家主が負担すべき費用となります。
    家主の希望で全面張替えする場合でも、借主が負担するのは、借主が責任を負う部分の最少施工単位です。
  5. 「償却」についても考慮されなければなりません。例えば、クロスやカーペットなどは、6年ごとに張り替えるのが標準とされており、6年後に1円の残存価値があると推定することとなっています。入居者にまったく責任がない場合でも、6年ごとに張替費用が発生します。
    そこで、入居者にも責任がある場合には、家主の「償却」との按分負担を行うべきだという考え方です。

入居者の責任範囲は、「自然損耗」と「経年劣化」、「工事施工単位」によって判断しなければなりません。そして、実際に負担すべき費用については、「償却」を考慮しなければならないとされています。

キャスター付きのイスで傷つけたフローリングについて

キャスター付のイスを使用していたため、フローリングの床に傷をつけてしまったのですが、通常生活上でついた傷なので、支払い義務はないと思うのですが、いかがでしょうか?

キャスター付のイスの場合、傷がつきやすいことが明白であるため、借主は、善良なる管理者の注意義務として、キャスターの当たる部分に小さなじゅうたんを敷くなどして、フローリングに傷がつかないような工夫を行うべきとされています。

従って、まったく何もせず、漫然とキャスター付のイスを使用していた場合には、善管注意義務違反として、原状回復費用の負担を行うべきとされています。

いつの間にか入った網ガラスのヒビについて

ベランダに面した網入ガラスに、いつの間にかヒビが入っていた。退去時に、「ヒビは入居時にはなかったので、入居者の責任である」と言われ、ガラス代を請求されました。支払うしかないのでしょうか?

「網入りガラス」は、ガラスの中に網を入れるため、製造過程での不具合が発生しやすく、しかも、網そのものは鉄製であるため錆びやすく、サッシの隙間から雨水がしみこむと網が錆びてきます。

錆が広がってくると膨張してきますが、ガラス自体は膨張しないため、やがてガラスにひびが入ってしまうのです。

従って、入居者が何らかの過失などでヒビを入れたのでなければ、製造過程上の問題や錆のためにひび割れが発生したものですから、借主が費用を負担すべき根拠はないのです。

しぶしぶ署名した修繕費用負担承諾書の撤回について

退去時の室内確認のとき、管理会社から修繕すべきところを指摘されました。借主の責任だと強く言われてしまい、修繕費用負担承諾書にしぶしぶ署名してしまったのですが、よく考えてみると、自分が汚してはいませんでした。承諾書を撤回したいのですが、できるでしょうか?

しぶしぶであろうが、快くであろうが、「署名捺印する」という行為は、その内容を承諾すると契約行為です。

そして、契約はいったん成立すれば、一方的に解除することはできないのです。

いったん、修繕費用負担承諾書などに署名捺印していた場合、それを撤回するためには、錯誤(何らかの重大な誤解を行っていた)であるとか、心神喪失状態(べろんべろんに酔っ払っていたので何がなんだかわからなかった)であるとか、脅迫(管理会社の社員から脅迫されていた)であるとかの理由が必要です。そういうものがなければ、いったん契約したものを一方的に解除することはできず、裁判になっても認められないケースが多いのです。

従って、退去時の確認時には、「単なる手続ですからサインして」と言われても、安易に署名せず、おかしいと思った場合には、「よく理解できないので預からせてほしい」と言い、よほどのことがない限り、その場での署名捺印を行わないようにしなければなりません。

入居時のカビについての費用請求について

入居したときから、浴室にカビが生えていて、そのままにしていたところ、退去時に、「カビが生えているのは、きちんと清掃せずにいたから」として費用請求されました。ただ、カビの原因は、建物の構造上の問題であることが多いので、支払を拒否したいのですが、認められるでしょうか?

カビの原因には、入居者の管理上の問題である場合もありますが、通常は、建物の構造上の問題から発生することが多いのです。

例えば、鉄筋コンクリート造の建物の場合、コンクリートの含水率が落ち着くまでに数年以上かかるといわれていますので、その間、水分が出続けます。また、窓ガラスが薄い1枚ガラスの場合が多いので、どうしても、冬場に窓ガラス周辺に結露が起こり、それが原因となってカビがはえてくることもあります。さらに、内断熱構造が多いので、躯体内で結露が発生するケースもよくあるのです。

従って、通常は、カビが生える原因は入居者に責任があるケースはそれほど多くないのです。

ところが、問題はここからです。

入居者には、カビが生える原因がないために責任もない場合でも、カビをそのまま放置しておくと、カビがどんどん広がり、躯体内などにも進入していくので、建物が傷みやすくなります。そういう状態になってくると、入居者は、善良なる管理者の注意義務違反ということになってしまうのです。

つまり、「カビが生えた責任は入居者にない場合でも、カビを放置した責任は問われる」ということです。

そこで、回答としては、支払拒否は認められない可能性が強く、借主の主張は認められないということになります。

契約名義人の変更4

賃借権のいわゆる「名義変更」については、
家主が快く承諾してくれたので問題ないと思われたが、
管理会社から、多額の「名義変更手数料」なるものを請求された。
支払いに応じなければならないか?

(回答)

管理会社が請求する根拠について、何か説明がありましたか?

「手数料」は、依頼主が要望したことに対して、具体的な作業を行ったことの
労務報酬と考えられますので、まず、借主として、管理会社に、何か、
手間をかけるようなことを依頼したのかどうか?まったく何も依頼していなければ、
おそらく契約書の書き換えの手間賃ということになりますが、
手間賃といっても、専門知識を要する作業ではなく、
時間的にもそれほどかかる作業ではありませんので、
せいぜい2~3千円程度までなら、支払いに応じても仕方ないかもしれません。

契約名義人の変更3

友人が退去する物件の条件がよかったので、「代わりに自分が住みたい」ので、
名義変更をしたいが、可能か?

(回答)

賃貸借契約は、借主と家主との間で結ばれるものであり、
個人と個人の信頼関係(借主は家主に対して家賃を支払うという約束を行い、
家主は借主に対して物件を使用させるという約束を行う)を前提にしています。

ここでいうところの「名義変更」というのは、借主が一方的に、
借主を変更してしまうということですが、それが認められれば、いつの間にか、
借主が勝手に代わっていたということになりかねず、
家主が不利益を被る可能性もあります。
したがって、借主が一方的に、「名義変更」を行うというようなことはできません。

いったん、借主と家主との間に結ばれた契約を合意解除し、
あらためて、家主との間で契約しなおすことになりますが、
家主が認めてくれなければ、契約しなおすことはできません。