退去時の鍵交換と費用負担

前の住人が退去されて新しい入居者が決まると、貸主がその部屋の鍵を新規のシリンダーに交換します。取り換えないでそのまま使う家主もいるようですが、それでは以前の借り主や関係者が新しい入居者の家に合い鍵で侵入することもできるということになります。
ですから、新規の契約者には、シリンダー交換済みの鍵を引き渡すのが、貸主の責任です。

「貸主が負担する」というのは、法律で決まっているのでしょうか

現在(平成25年1月)のところ、鍵の交換についての法律はありませんが、国土交通省が平成16年に制定して改訂を重ねている、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づいた対処法があります。

ガイドラインですから法的な効力はないのですが、訴訟で裁判になった場合は、このガイドラインに沿って判決が下されることが多くなっています。

退去時に鍵の交換代を請求された場合はどう対処すればいいのでしょうか

払う必要はありませんが、トラブルになるのも避けたいところですから、「国土交通省のガイドラインに、貸主側の負担であることが明示されています。現在では社会通念上、鍵の交換費用は貸主負担であるとされていますが、どうお考えでしょうか」と主張し、話し合うのが得策でしょう。

入居前に、契約書や重要事項説明で「鍵の交換費用は借り主が負担する」という記述がを見つけた場合はどうすればいいでしょうか。また、あまりよく読まずにそれら書面に押印してしまい、後から請求された場合はどうすればいいのでしょうか

契約書に明記されていて印鑑を押したからといって、それが法律的に有効であるとは限りません。訴訟になると過去の判例に基づいて、契約内容が破棄されることはよくあります。ですから、泣き寝入りをしたり、払うべきものだと早合点することはありません。

また、「どうもこの鍵は新しくはなさそう」と感じたら、貸主側に「鍵は取り換えてありますか?  防犯の方法を考えているので」と質問をしてください。もし換えていないようなら、早急に取り換えてもらうよう、話しましょう。

管理会社も貸主も、「鍵の費用負担は貸主が行うことが基本だ」ということは分かっているはずなので、きちんと伝えてください。

ペット禁止マンションの契約違反と違約金、原状回復との関係

ペット禁止マンションの契約違反と違約金、原状回復との関係

 ペット禁止の賃貸マンション(家賃:月額10万円)で、借主が無断で猫を飼ったため、貸主が、原状回復の際に、借主に対し契約違反を理由に、違約金を含めた90万円の原状回復工事費用の支払いを請求してきた。借主はこれに応じなければならないか。
なお、この契約において、敷金は家賃の2か月分が支払われており、入居時には、畳の表替えと襖の張り替えはなされていたが、その他の場所はハウスクリーニングのみで、違約金の定めはもとより、原状回復に関する特約は一切されていない。

事実関係

当社は、従業員の社宅用に賃貸マンションを借り上げているが、このたびペット飼育禁止特約のある賃貸マンションで、入居者が猫を飼ったため、建物の明渡しに際し、貸主が、入居者の契約違反を理由に、違約金を含めた原状回復工事費用として、畳、襖の交換のほか、床(フローリング)、壁クロスの全面張り替えとハウスクリーニング費用の支払いを請求してきた。
なお、本件の建物は、入居時には畳の表替えと襖の張り替えはしてあったが、その他の箇所はハウスクリーニングがしてあっただけであり、当社はそれに対し敷金として家賃の2か月分(20万円)を差し入れているが、今回貸主が請求してきた原状回復のための工事費用が90万円のため、70万円もの追加費用が発生する。

質問

  •  賃貸借契約書には、ペットの飼育禁止の特約はあるが、借主がこれに違反した場合の違約金の定めはない。このような場合にも、貸主は借主に対し違約金の支払いを請求することができるのか。
  •  もし違約金の支払いの請求ができないとした場合、貸主は借主に対しどのようなペナルティの支払いを請求することができるのか。それは具体的にはどのような額になるのか。
    なお、本件の契約においては、ペット飼育に関する違約金の定めはもとより、いわゆる原状回復特約と称する特約は一切定めていないし、実際の建物の使い方にしても、多少の猫のにおいは残っているとしても、爪によるひっかきキズやフン・尿のシミやにおいはほとんどないといってよい程である。にもかかわらず、貸主は自分がアレルギー体質だからと言って、床や壁の全面張り替え費用まで請求してきている。
  •  当社は、貸主が訴訟で原状回復費用の90万円を請求してきた場合、応訴も辞さないつもりでいるが、この契約においては、物件が地方にあるため、その物件の所在地を管轄する地方の裁判所を合意管轄裁判所としている。このような場合、今回のような貸主の不当な請求に対しても、当社はその地方の裁判所で訴訟をしなければならないのか。なお、貸主はその物件の所在地を住所地としている。

回答

1. 結 論
 質問1.について ― 違約金の請求はできない。
 質問2.について ― 貸主は借主に対し違約金の請求はできないので、貸主は、ペナルティ(制裁金)ではなく、その借主の違約によって生じた損害を立証したうえで、損害賠償請求というかたちで請求をすることになる。したがって、貸主としては、それを今回の原状回復工事の中で、その猫の飼育との因果関係が認められる範囲の損害(一般的には、たとえば猫のにおいや毛の落下、建物への付着、猫の爪による建物へのキズ、フン・尿のにおいやシミなどの除去、修復、脱臭、消毒等に要する費用が損害ということになろう。)について、原状回復費用と合わせて賠償請求をするというかたちをとったのであろうが、その賠償請求と合わせた原状回復工事の総額が90万円というのは、家賃10万円の建物に比し、やや高額に過ぎるのではないかと考えられる。具体的には、床(フローリング)と壁クロスの全面張り替え工事について、貸主がどこまでその因果関係を立証することができるか、そして、その場合の借主の入居年数や部材の経過年数をどのように評価するかなどが争点となろう。
なお、その場合の貸主自身のアレルギー体質云々については、建物が、基本的には第三者に賃貸されるものであることから、当事者に特段の事情がない限り、特に考慮する必要はないと考えられる。
 質問3.について ― 原則的には、その地方の裁判所で訴訟をしなければならない(民事訴訟法第11条)。
2. 理 由
⑴について
違約金は、当事者に違約があった場合に、その相手方に支払うべきものとして、当事者が特別に定めた金銭のことである。したがって、本件の場合は当事者間で違約金の定めをしていないのであるから、借主に違約があったとしても、貸主は借主に対し違約金の支払いを請求することはできない。
なお、本件の場合に、ペット飼育についての違約金の定めがあれば、その違約金の性質について当事者間で特別の定めをしていない限り、その違約金の定めが損害賠償額の予定と推定されるので(民法第420条第3項)、あとは、そのペット飼育の違約の部分以外の借主の故意・過失等による原状回復の問題だけを検討すればよいということになる。
⑵について
(略)
⑶について
裁判を、どこの裁判所で行うかについて当事者間で合意した場合には、特別な事情がない限り、その合意された裁判所で裁判が行われる(民事訴訟法第11条)。しかし、その審理の過程で、たとえば証人や訴訟当事者の遠距離出廷等の問題で、著しく訴訟が遅滞したり、当事者間の衡平を欠くというような事態が生じるときは、当事者の申立てにより、または裁判官の職権で、他の裁判所への移送が行われることもあるが(民事訴訟法第17条)、本件のような建物賃貸借契約における原状回復絡みの裁判においては、物件の所在地を管轄する裁判所で裁判が行われている限り、他の地域の裁判所に移送されることはまずないと考えられる。

参照条文

民法第420条(賠償額の予定)
 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
 (略)
 違約金は、賠償額の予定と推定する。
民事訴訟法第11条(管轄の合意)
 当事者は、第1審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
 (略)
同法第17条(遅滞を避ける等のための移送)
 第1審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。

監修者のコメント

違約金は、その定めがない限り、その請求はできないことは当然であり、債務不履行の一般原則によることとなる。すなわち、本ケースでは、借主のペット飼育による原状回復費用の増加額が貸主の損害ということになり、そのことは貸主が立証(証明)しなければならない。
ただ、本件で借主がペットを飼育していることを貸主が知りながら、そのまま放置し、いよいよ契約が終了した時に違約を初めて主張するという場合は、貸主の主張が、信義則又は権利の濫用の法理によって、一部が認められない可能性がある。
なお裁判管轄の合意については、合意した裁判所しか認めない「専属的管轄合意」と法律上認められている管轄にプラスしてその合意した裁判所でもよいという「付加的管轄合意」があり、契約の解釈として、そのどちらであるかを決定しなければならない。

建物賃貸借契約における敷金と保証金の違い

建物賃貸借契約における敷金と保証金の違い

 建物賃貸借契約の締結に際し授受される敷金と保証金は同じものか。
保証金は、居住用の建物賃貸借契約を締結する場合にも授受されるのか。
建物の明渡し時に保証金の一部を償却するという特約をした場合、その償却される保証金はどういう性質の保証金か。契約の更新ごとに保証金の一部を償却し、その償却額を借主が補充するという特約をした場合、その償却される保証金はどういう性質の保証金か。

事実関係

当社は賃貸の媒介業者であるが、最近の建物賃貸借契約においては、敷金と保証金の違いがよくわからなくなるようなケースがある。その理由は、敷金の償却については、いわゆる「敷引き」ということで比較的わかりやすいが、保証金の償却ということになると、これは業務用の建物の場合に限られるのではないかという感じがするし、それも単に建物の明渡し時に償却するだけでなく、契約の更新時にも償却することもあるので、その保証金の法的性質がよくわからない。

質問

  •  敷金と保証金は同じものか、それとも違うものか。もし同じだとしたら、賃貸借物件が売買された場合、保証金も敷金と同じように、買主にその返還債務が承継されるのか。
  •  保証金は居住用の建物賃貸借契約を締結する場合にも、授受されるのか。
  •  建物賃貸借契約の締結に際し、建物の明渡し時に保証金の一部を償却するという特約をした場合、その償却される保証金はどういう性質の保証金か
  •  契約の更新ごとに保証金の一部を償却し、その償却額を借主が補充するという特約をした場合、その償却される保証金はどういう性質の保証金か。

回答

1. 結 論
 質問1.について ― 最近の保証金は、敷金(借主の債務の担保)として授受されるケースが多く、その限りにおいては同じものである。したがって、そのようなケースにおいては、賃貸借物件が売買された場合には、保証金の返還債務も買主に承継されるが(最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁=後記【参照判例】参照)、保証金を「建設協力金」として授受するなど、敷金以外の目的で授受したり、敷金以外の目的が混合したものとして授受しているケースの場合には、その敷金部分だけが買主に承継されると解される(最判昭和51年3月4日民集30巻2号25頁=後記【参照判例】参照)。
 質問2.について ― 居住用の賃貸借の場合にも保証金名目で授受されることはあるが、その実質は敷金であることが多い。
 質問3.について ― いわゆる「敷引き」としての性質を有する償却でない限り、「権利金」ないし「礼金」としての性質を有する保証金と解される。
 質問4.について ― 「更新料」としての性質を有する保証金と解される。
2. 理 由
⑵について
 敷金は、賃貸借契約の締結に際し、借主から、賃料債務その他の債務を担保する目的で貸主に交付される金銭で、契約終了の際に、借主に債務不履行があればその額が減額され、債務不履行がなければその全額が借主に返還されるものをいうが、保証金についても、同様の目的で貸主に交付されるケースが多い。したがって、その債務の担保として差し入れられた保証金については、結論で述べたように、賃貸借物件が売買されれば、その返還債務は買主に承継されるというのが判例である(後記【参照判例】参照)。
そして、それらの敷金や保証金は、建物が居住用のものであると業務用のものであるとを問わず授受されているが、どちらかといえば、居住用のものは敷金名目で授受されることが多く、業務用のものは敷金、保証金の両名目で授受されている。その理由は、従来、借主からの借入金としての法的性質を有していた「建設協力金」名目で授受されていた金銭が、時代の変化とともに、「保証金」名目で授受されるようになったことからきているといわれている。
について
 権利金は、一般に土地の賃貸借の場合と同様に、権利設定の対価、すなわち借家権設定の対価として借主から貸主に支払われるもので、返還されないものと解されているが、建物賃貸借の場合には、そのほかに飲食店などのケースでは、賃借権譲渡の事前承諾の目的で授受されることもある。
一方、礼金の授受については、借家だけについての戦前からの慣行のようで、これも返還されないものであるが、どのような法的性質を有するものであるかは定かでない。
しかしいずれにしても、保証金の一部を建物の明渡し時に償却するということは、契約の締結時にその償却分が返還されないことが確定するので、その意味において、権利金ないし礼金と同様の法的性質を有するものと解することができる。
について
 更新料の法的性質については、種々のものが考えられるが、一般的な当事者の意思解釈としては、更新の対価、すなわち更新契約に基づく期間設定の対価と解され、その意味において、借主が契約の更新ごとに一定の償却額を補充するのは、契約の存続を確たるものにするためのものであり、期間を定めた賃貸借の場合には、その償却される保証金はまさに更新料としての法的性質を有するものと考えられる。

参照判例

最判昭和44年7月17日民集23巻8号1610頁(要旨)
 建物賃貸借契約において、該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務が新賃貸人に承継される。
最判昭和51年3月4日民集30巻2号25頁(要旨)
 賃貸ビルの譲渡に伴い、建設協力金としての保証金を移転せしめる慣習がない場合には、譲受人である新賃貸人と賃借人との間に保証金関係は当然には承継されない。

監修者のコメント

敷金の法的性格は回答のとおりであるが、保証金とは何かというと、その法的性格は様々である。建設協力金であったり、単なる金銭消費貸借であったり、権利設定の対価であり、また関西地域では敷金のことを保証金と呼ぶことが多い。したがって、「保証金」名目の金銭であっても、それが敷金の性格をもつものであれば、賃貸建物の譲渡により、原則として新貸主にその返還債務が承継される。それゆえ、現実に授受された保証金名目の金銭が敷金の性格をもつのか、それ以外の性格をもつものなのか自体が裁判で争われることもある。その判断は当事者の意思がどうであったかの認定問題であるが、授受された保証金のうち家賃の6か月分だけが敷金だ、とされた裁判例もある。また、敷金の性格をもたない保証金でも償却ということもあり得る。原則的には契約自由の原則の範囲内の問題である。
なお、「更新料」については、居住用建物におけるその性格を、近次、最高裁は、「一般に、賃料の補充ないし前払い、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するもの」と述べている(最高裁・平成23年7月15日判決)。

解除5

家主に手付金を支払い、契約するつもりでいたが、
予定していた連帯保証人から保証を拒否されたため、
家主に、「連帯保証人を立てられないので、契約を諦める」と言ったところ、
家主は、「契約できないのは残念だが仕方ない。
ただし、手付金は没収する」と言ってきた。

しかし、連帯保証人を付けるという条件付の契約の場合は、
その条件が満たされない場合には、契約そのものが成立していないはずなので、
手付金も返還されるべきだと思うのだが‥。

(回答)

不動産の賃貸借契約においては、連帯保証人を付けるのは一般的なことです。
連帯保証人を付けるという条件付の契約に違いないのですが、
これは、「停止条件付契約」ではなく、「解除条件付契約」です。

「停止条件付契約」という場合には、条件が成就されたときにはじめて契約が
有効に成立することになりますが、
「解除条件付契約」という場合には、条件が成就されなかったときに、
契約そのものがなかったことになりますが、それまでは契約は成立しているのです。

連帯保証人を付けるという条件は、借主が連帯保証人を見つけられなかった場合、
家主は、契約をなかったものとするか、契約そのものは維持しながら
保証会社などの利用を迫るか、他の入居者を見つけにくいような場合には、
連帯保証人なしに契約をそのまま生かすかなどの選択を行うことができます。

要するに、連帯保証人を立てられないというのは借主の事情に過ぎないわけで、
契約そのものは成立していますので、手付金を放棄しないと契約解除はできないのです。
このことは、別の見方をすればよくわかると思います。

つまり、手付金を支払ったあとでも、借主が「保証人を立てられなくなった」と言えば、
手付金の放棄をすることなく、契約を解除できるとすれば、
あまりにも家主に不利な状況になってしまうのです。

解約4

契約金は全額支払い、契約書も交わしていたが、まだカギは受け取っていなかった。
業者から「契約は成立しているのでキャンセルするなら敷金以外返金できない」
と言われた。業者の言い分は正しいか?

(回答)

前項と同じような質問に見えますが、カギの受取だけがまだというケースです。

契約書も交わしているということですので、
前項よりも、キャンセルするペナルティーとしては大きくなるでしょう。
そして、もっとも重大なポイントとしては、
本来のカギの受取日(契約開始日)との関係です。

つまり、「カギを受け取っていない」という時点が契約開始日より前であれば、
同じように、家主との間で粘り強い交渉が必要となるでしょう。

ところが、「カギを受け取っていない」のが、契約開始日当日のことである場合、
つまり、契約開始日になったものの、まだカギを受け取っていなかっただけ
というような場合は、契約そのものは開始されていますので、
「敷金以外は返金する」というのであれば、まだましであるということになります。

なぜなら、契約開始後のキャンセルとみなされれば、
「契約期間中の途中解約」扱いとなりますので、
違約金まで支払う義務が出てくるからです。

まして、「カギを受け取っていない」と言っても、
すでに契約開始日が過ぎていたような場合には、
途中解約扱いになってしまいますので、違約金まで支払う必要がでてくるのです。

解約3

契約金は全額支払ったが、契約書には双方の署名捺印は
まだだったのに、業者から「契約は成立しているので
キャンセルするなら敷金以外返金できない」と言われた。
業者の言い分は正しいか?

(回答)

賃貸借契約そのものは、借主が手付金を支払い、
家主がそれを受領することで成立します。

契約書は、成立した契約内容を文書で表したものであり、
契約書を交わしていなければ契約が成立しないというわけではないのです。

手付金だけ納めていたような場合のキャンセルでは、
手付金の放棄だけでよいのですが、契約金の残金も支払われていますので、
キャンセルする場合には、手付金の放棄だけで済むかどうかがポイントになります。
つまり、前家賃や礼金、火災保険料、仲介手数料などについての
返金があるかどうかということです。

「前家賃」は、物件として利用収益していない以上、返還すべきでしょう。

「礼金」は、法律上の定めのないお金ですので、家主との交渉次第ですが、
キャンセル時期が入居日に近ければ、返還交渉は困難でしょう。
法律に定めていないお金であり、「家賃の一部」という考え方をとれば、
返還すべきということになりますが、慣習的に支払われているお金ですので、
家主が返還しないと言えば、「返せ」と言っても認められないでしょう。

「火災保険料」は、契約期間が始まっていないので、返金してもらうべきでしょう。

「仲介手数料」は、契約そのものは成立していることから、
契約成立に関わった仲介手数料の支払いはやむを得ないという考え方と、
契約が完了していない(入居していない)ので仲介手数料の支払いは
不要であるという考え方があります。

従って、「業者の言い分は正しいか?」という質問に対する回答としては、
「必ずしも正しいとは言えないが、返金のためには強い交渉が必要」
ということになります。

解約2

手付金を支払っただけで契約書には署名捺印まではしていないのに、
業者から「契約は成立しているのでキャンセルするなら手付金は没収する」
と言われた。業者の言い分は正しいか?

(回答)

通常の契約の場合には、諾成契約と言って、
一方の「申し込み」と他方の「承諾」があれば、
お金のやり取りがなくても契約が成立しますが、賃貸借契約の場合には、
手付金というお金を支払うということで、借主の意思を明確にし、
家主に対しても安易に契約を反故しないようにさせるようにしています。
つまり、賃貸借契約の成立には、手付金の授受が必要なのです。

従って、手付金を支払えば、契約書に署名捺印していなくても、
契約そのものは成立しているわけです。

問題は、手付金は、本来、家主が受け取るべきお金ですから、
仲介業者に支払ったお金が、手付金として認定されるかどうかということになります。

この点は従来曖昧なままでしたが、仲介業者が、手付金として受け取るためには、
家主から、手付金授受の代理権を得ていることの証明を
提示しなければならないとされています。
つまり、代理権も何もないのに、業者が勝手に「手付金」と呼んでいたとしても、
それは法的には、手付金とは認められず、単なる預かり金に過ぎず、
従って、キャンセルする場合には返還しなければならないということです。
これらの点から、仲介業者さんの言い分が正しいかどうかを判断してください。

解約1

申込金を支払っただけなのに、業者から
「契約は成立しているのでキャンセルするなら申込金は没収する」と言われた。
業者の言い分は正しいか?

(回答)

もともと、仲介業者が申込金などを受け取ることは望ましいことではないと
されています。しかし、借主が物件を押さえておくために、
特別に依頼したような場合には、例外的に申込金などの受取を認めています。

その際、お金の有効期限やキャンセルの際に返還すること、
契約に結びつく場合には契約金に充当することなどを明確にしなければ
ならないとされているのです。

従って、申込金、申し込み証拠金、預かり金、予約金など
手付金以外の名目で業者が受け取ったお金は、原則として、
借主からキャンセルする場合には、返金しなければなりません。
また、手付金以外では契約成立とはなりませんので、
業者の言い分そのものが間違っています。

しかし、業者の中には、素直に返還に応じない業者もありますので、
その際は、「手付金以外の名目で受領したお金は返還すべきです。

契約の開始時期1

実際の入居は4月になるのに、契約手続きした日から契約開始となるということで、
住んでもいないのに余分な家賃を請求されたが、従わざるを得ないのか?

(回答)

常識的には、契約手続き日=契約開始日というわけではなく、
契約手続き(手付金支払い)→契約書締結→契約残金支払い
→カギ渡し=契約開始となるのがふつうです。

ところが、契約手続きの時点で空室になっているような場合、
家主は早く家賃を徴収しようと、入居者の利便を図るようなそぶりで、
カギ渡しまで行い、契約開始を行うようなケースがあります。

このようにならないようにするためには、契約前の重要事項説明の時点で、
契約開始日の確認を行っておき、万一、すぐに入居できないのに、
契約開始日が始まるというような場合には、
契約開始日を遅らせてもらうように交渉すべきでしょう。

しかし、重要事項説明の時点で、そのような問題点に気づかず、
家主から家賃の請求をされてはじめて気づくような場合には、
仲介業者の重要事項説明が不十分であったということで、
仲介業者に掛け合うことになるでしょう。

いずれにしても、家主から請求されるままに支払うのではなく、
仲介業者を通しながら、仲介業者の説明不足を訴えて、
家賃の支払いを実際の入居日からになるように交渉することが必要でしょう。

連帯保証人1

連帯保証人を立てるのではなく、保証会社を利用したいのだが、
家主が認めてくれない。何とかならないか?

(回答)

連帯保証人を立てるのか、それとも、連帯保証人に代わるものとして
保証サービスを行う業者を利用するのかを選択する権限は、残念ながら、
借主にあるわけではありません。家主が判断して決めることなのです。

したがって、原則としては、家主が保証会社の利用を拒否する場合には、
保証会社を利用することはできません。しかし、多くの家主は、
保証会社のサービス内容に通じているわけではありません。

とりあえず、よくわからないものについては、
誰でも拒否反応を示す場合が多いわけですから、
家主が拒否する場合も、単に、「よくわからないから」という場合もあるでしょう。
そこで、利用したい保証会社のサービス内容について、
家主に対して、きちんと説明してみてください。

保証会社のサービスは、通常の連帯保証人と比較して、
メリットもデメリットもあると思います。
詳細については、各保証会社のそれぞれの商品内容を調べてください)ので、
家主に説明すれば、家主が必ず納得するとは限りませんが、
やってみる価値はあるだろうと思います。