マンションを退去する際に鍵交換は必ず必要か?

マンションを退去する際に鍵交換は必ず必要か?

賃借人の入替えに応じて鍵を交換する理由は、次の賃借人のセキュリティを保全するためです。しかし、安全対策は本来貸主が次の賃借人に負う義務であり、なんでもかんでも賃借人に費用を転嫁してしまう不動産業界の悪癖です。

現在(平成25年1月)のところ、鍵の交換についての法律はありませんが、国土交通省が平成16年に制定して改訂を重ねている、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に基づいた対処法があります。

ガイドラインですから法的な効力はないのですが、訴訟で裁判になった場合は、このガイドラインに沿って判決が下されることが多くなっています。

払う必要はありませんが、トラブルになるのも避けたいところですから、「国土交通省のガイドラインに、貸主側の負担であることが明示されています。現在では社会通念上、鍵の交換費用は貸主負担であるとされていますが、どうお考えでしょうか」と主張し、話し合うのが得策でしょう。

入居前に、契約書や重要事項説明に「鍵の交換費用は借り主が負担する」という項目があり、印鑑を押してあったとしても、それが法律的に有効であるとは限りません。訴訟になると過去の判例に基づいて、契約内容が破棄されることはよくあります。ですから、泣き寝入りをしたり、払うべきものだと早合点することはありません。

一度、ご相談ください。

民法改正で住まいの売買/賃貸はどう変わる?

日本の主要な法律の一つ「民法」の改正が予定されている。2015年3月に国会(第189回)に提出され、120年ぶりの改正になると話題を集めたが、安保法案などの関係もあって審議が持ち越され、ようやく今国会(第192回)で審議に入った。社会秩序を維持するための重要なルールを定めた法律であるだけに、その影響は大きい。もちろん、住宅を賃貸借したり売買したりする場面においても。では、具体的にどういった影響があるのだろうか? 弁護士の江口正夫さんに伺った。

賃貸住宅を退去する際、「敷金の原則返還」を明文化

賃貸借でもっとも多いトラブルが、退去時の敷金や原状回復に関するもの。改正される民法では、敷金とその返還時期を定義づけ、退去によって部屋を明け渡したとき、敷金を返還しなければならないとしている。

一方、借主が負う原状回復の内容も明文化された。そのため、通常の使用による損耗や経年劣化によるものを除き、入居後に損傷があった場合(入居者に原因のないものは除く)、原状回復費用を差し引いた残りの額が返還されることになる。

これまでもトラブルを避けるために、国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定している。最高裁判所の判例といった法的な根拠もあり、「現状の裁判所の基本的な考え方が明文化されたということで、実はこれまでの考え方と大きく変わることはありません」と江口弁護士。

※なお、通常損耗についても借主に負担させるという賃貸借契約の特約も民法上は有効。ただし、当事者間の信義誠実の原則に反するような一方的に消費者の利益を害するような特約の場合は、「消費者契約法」の規制により無効になる。

賃貸住宅を借りる際の連帯保証人が保護される流れに

賃貸住宅を借りる際には、連帯保証人を立てるか、保証会社に保証料を払って保証してもらうか、どちらかの対応を取っているケースがほとんどだが、連帯保証人が保護される改正の流れになっている。

具体的には、家賃を払うなどの借主の債務について、連帯保証人になった後で家賃が増額になるなどの加重された分までは、連帯保証人が保証する必要はない。家賃が10万円の場合の連帯保証なら、家賃が15万円に上がったという場合でも、10万円だけ保証すればよいということだ。

また、連帯保証の契約では、連帯保証人が個人の場合には、極度額(保証する金額の上限額)を書面で合意することになった。想定した以上の金額を請求されることのないようにするためだが、極度額の記載のない連帯保証契約は無効になるので、注意が必要だ。これは、新規に契約する場合や、すでに交わした連帯保証契約の更新をする場合に適用される。

個人が保証の上限額を記載してまで連帯保証することは現実的ではないので、「この法改正によって、 家賃保証会社の利用がさらに増えるのではないか」と江口弁護士は予想している。

「瑕疵担保(かしたんぽ)責任」から「契約不適合責任」へ

「実は、最も影響が大きいのは、賃貸借よりも売買契約のほうにあります」と江口弁護士は指摘する。「瑕疵担保責任」の考え方がなくなり、「契約不適合責任」に変わるからだという。

「瑕疵担保責任」とは、事前に知らされていなかった重大な欠陥などがあった場合、売主に対して、損害の賠償を請求できるというもの。住むこともできないほどの欠陥であれば、契約の解除を請求することも可能。

この考え方が改正後の民法では、「契約不適合責任」に代わる。つまり、客観的に欠陥かどうか判断するのではなく、契約の趣旨、目的に適合しているかどうかで判断するわけだ。

住宅の売買の場合は、通常は居住することが目的となるので、それが達成できない場合はその程度に応じて、(1)~(4)までの選択肢が用意される。

【契約不適合責任の選択肢】
(1)損害賠償請求
(2)代金減額請求
(3)修補請求(住める状態になるように補修してもらうこと)
(4)契約解除

瑕疵担保責任では、(2)の代金減額請求や(3)の補修を求めるなどの追完請求は選択肢としてなかったし、(4)の契約解除は住めないほどの欠陥があるという条件付きだったのが、そのような制限はなくなったので、買主側の選択肢は増えることになる。

これまで以上に契約内容が重要になってくる

「契約不適合」という考え方が導入された背景には、瑕疵という概念が分かりづらいことや、買主の過失で瑕疵を見落とした場合に救済されないことなどを考慮する一方、より現実的な救済策として、代金減額や補修の請求などもできるようにして、柔軟な運用を可能にする見直しをしようということにある。

具体的な事例で考えてみよう。例えば、住宅を買う目的が、大量に収集した書物を収納する書庫がほしいからという場合、その重量に耐える基礎や床の強度が必要となる。一般的な住宅としての強度はあっても、大量の書物の重量に耐えられず床が傾くなどした場合、売主に「契約不適合」として、書庫として使用できるように補修を請求したり、損害賠償を請求したりできるようになる。もちろん、契約書に書庫として使用する目的があること、その重量に耐える強度があることが保証されていたり、補強工事をすることを条件としていたりといった記載が盛り込まれていることが前提。「そのつもりで買った」というだけでは該当しない。

つまり、同じような不具合があったとしても、売主の過失の有無や契約の内容によって、責任を追及できる範囲が変わってくるということになる。
民法改正が実現すると、これまで以上に契約内容がものを言うようになる。民法改正の国会審議にも関心を払い、契約の重要性を再認識してほしい。

by SUUMOジャーナル

「原状回復」とは、どこまでの状態まで戻すこと?

そもそも「原状回復」というのは、「入居当時の状態に戻す」ことなのでしょうか?

本来の「原状回復」の意味は、「物件に持ち込んだ物品の撤去義務」のことです。つまり、退去時には、室内に持ち込んだ家財道具を運び出したり、壁に貼ったポスター等はきちんと剥がして下さいということなのです。

ところが、家主や管理会社の多くは、「原状回復とは、入居当時の状態に戻すことである」というような拡大解釈を行っていることが多いのです。

借主は、退去の際、原状回復を行う義務を負っていますが、それには、次のポイントがあります。

  1. 借主に、故意・過失・善良なる管理者の注意義務違反があれば、原状回復の責任を負いますが、それらがなければ、責任を負いません。
    つまり、家主負担となります。ちなみに、「善良なる管理者の注意義務」とは、自分のもの以上に丁寧に取り扱う注意義務のことです。
  2. 「自然損耗」(通常損耗)は費用負担の必要がありません。「自然損耗」(通常損耗)というのは、「通常の生活」を行っているときに発生した汚損・破損のことであり、これらについては、国土交通省から、借主の責任ではないというガイドラインが示されています。
  3. 「経年劣化」(経年変化)も費用負担の必要がありません。「経年劣化」というのは、建物は、年数が経過すれば自然と傷んできます。入居者の責任ではありえませんので、経年劣化による汚損・破損も入居者負担とすることはできません。
  4. 「工事施工単位」(「最少施工単位」)も注意すべきです。例えば、クロスの一部を入居者が汚損してしまった場合、その部分については張替責任がありますが、張り替える責任のある範囲は、「最少施工単位」、つまり、汚損のある部分の張替部分を含んで職人さんが来てくれる最小限度の範囲となります。
    通常は、クロスなどの場合は1枚単位です。ところが、家主や管理会社は、「1枚だけ変えると色違いが発生するので、全面張替えする」というような主張を行うことが多いのですが、色違いをなくすのは、次の入居者確保のために家主が行うことですので、家主が負担すべき費用となります。
    家主の希望で全面張替えする場合でも、借主が負担するのは、借主が責任を負う部分の最少施工単位です。
  5. 「償却」についても考慮されなければなりません。例えば、クロスやカーペットなどは、6年ごとに張り替えるのが標準とされており、6年後に1円の残存価値があると推定することとなっています。入居者にまったく責任がない場合でも、6年ごとに張替費用が発生します。
    そこで、入居者にも責任がある場合には、家主の「償却」との按分負担を行うべきだという考え方です。

入居者の責任範囲は、「自然損耗」と「経年劣化」、「工事施工単位」によって判断しなければなりません。そして、実際に負担すべき費用については、「償却」を考慮しなければならないとされています。

入居者が転落死した賃貸住宅の家主に賠償命令

<入居者が転落死した賃貸住宅の家主に賠償命令>

福岡高等裁判所は、入居者が窓から転落死した賃貸住宅の家主に、
約350万円の損害賠償を命じる判決を下した。窓に手すりがないのは瑕疵であり、
家主が窓に手すりを設置しなかったのは安全配慮義務違反だと訴え
入居者の遺族の主張を認めた。遺族も家主も上告せず、4月4日に判決は確定した。

事故が起こった賃貸住宅は、1973年に完成した木造2階建ての建物だ。
入居者は50歳の女性で、2002年11月、2階で窓の外に洗濯物を干していたとき転落死した。
洗濯物を干すには物干し竿まで身を乗り出す必要があったが、窓に手すりはなかった。
福岡高裁は判決で、窓には民法上の瑕疵があったと認定した。
さらに、家主が入居者の洗濯物の干し方を知りながら手すりを設置しなかったことは、
入居者に対する安全配慮義務に違反すると判断した。

その一方で福岡高裁は、入居者にも過失があったことを理由に、
家主が支払う損害賠償の金額を請求額の1割に抑えた。
身を乗り出さないと洗濯物を干せなかったそもそもの原因は、
竿を受ける金具の不具合だ。にもかかわらず、入居者が金具を修理したり、
不具合を家主に訴えたりしなかったことは、転落死事故の発生に大きく影響したと判断した。
家主側は、窓の腰壁の高さが床から約73cmあることを理由に、
手すりはなくても窓は安全だと主張していた。

福岡高裁は判決で、建築基準法は窓の腰壁の高さを規定していないものの、
建設業界には一般に65~85cmの高さならば安全と見なす考えがあると指摘した。
この考えに基づいて約73cmという高さ自体の危険性は否定したが、
窓から日常的に身を乗り出す入居者のためには手すりが必要だったと結論付けた。
05年に福岡地方裁判所小倉支部が下した一審判決は、
住宅の完成から30年近く転落事故がなかったことなどを理由に、
入居者の遺族の訴えを棄却した。そのため遺族側が控訴していた。

テナント入居時のトラブル

「保証金」と「敷金」は法的に同じものか、違いはあるか?

保証金をめぐってのトラブルも数多い。
なぜなら、保証金の法的な性質がななり曖昧であるためです。

「敷金」というのは、借主の家賃やその他の借主側の債務を担保するために
支払われる金銭です。敷金は契約が終了して明渡をした時点で、
賃料の滞納分や借主が支払わなければならない何らかの金銭のすべてを差し引いて、
残金があれば借主に返還されなければなりません。

オーナーは家賃の滞納などがあった場合、当然敷金から差し引くことができます。
賃借人の債務を敷金から差し引いて残高があれば、
賃借人に返却すればそれで良いのです。

その敷金を第三者から差し押さえられたり、
債権譲渡されたりしても、もともと敷金というのは
貸主の債権を担保するために預かっているお金であるため、
最優先で貸主の債権を敷金から差し引くことができます。
このように敷金についてはその定義が明確になっています。
敷金に対して、第三者が債権譲渡などを主張してきても
何も恐れる必要はありません。

問題は保証金です。保証金も預り金と考えるのが一般的です。
ところが、保証金は敷金と同じ性質のものではありません。
ビルの大小、契約の形態などで、それぞれ保証金の扱いが
異なってくるからです。 また、地域によっても違いがあります。

保証金の性質は敷金のように明確でないために、
保証金をめぐってのトラブルは非常に発生しやすい。
確かに保証金も敷金と同じように、貸主の債権担保のために
預かるお金という意味合いも持ちます。
ところが、それと当時に、借主が貸主に対してお金を貸し付けるという
金銭の消費貸借の性格もあります。
つまり、借主が貸主に金銭を貸しているとも考えられるのです。

敷金はせいぜい賃料の数ヶ月分である。
多額の敷金でも、20ヶ月分でしょう。
敷金を預かっても建築費用の捻出はできません。
そこで建設協力金という言葉が使われて、
建設協力金として保証金を差し入れるようになったのです。

保証金を賃貸借契約書の中に含むケースもあるし、
金銭消費貸借という全く別個の契約として
借手のテナントが家主にお金を渡すこともあります。

保証金は権利金と異なり、将来的に返還義務が伴うのが常識です。
ただし、各情況によって保証金の取り扱いは異なります。

原状回復特約に対する最高裁判決(2005年12月16日)

最高裁判決

判例 平成17年12月16日 第二小法廷判決 平成16年(受)第1573号 敷金返還請求事件

要旨:
賃借建物の通常の使用に伴い生ずる損耗について賃借人が原状回復義務を負う旨の
特約が成立していないとされた事例
内容:
件名   敷金返還請求事件

(最高裁判所 平成16年(受)第1573号 平成17年12月16日 第二小法廷判決 破棄差戻し)
原審   大阪高等裁判所 (平成15年(ネ)第2559号)

主    文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理    由

上告代理人岡本英子ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,地方住宅供給公社法に基づき設立された法人である。

(2) 第1審判決別紙物件目録記載の物件(以下「本件住宅」という。)が
属する共同住宅旭エルフ団地1棟(以下「本件共同住宅」という。)は,
特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律(以下「法」という。)2条の認定を受けた
供給計画に基づき建設された特定優良賃貸住宅であり,
被上告人がこれを一括して借り上げ,各住宅部分を賃貸している。

(3) 被上告人は,平成9年12月8日,本件共同住宅の入居説明会を開催した。
同説明会においては,参加者に対し,本件共同住宅の各住宅部分についての賃貸借契約書,
補修費用の負担基準等についての説明が記載された「すまいのしおり」と題する書面等が配布され,
約1時間半の時間をかけて,被上告人の担当者から,
特定優良賃貸住宅や賃貸借契約書の条項のうち重要なものについての説明等がされたほか,
退去時の補修費用について,賃貸借契約書の別紙
「大阪府特定優良賃貸住宅and・youシステム住宅修繕費負担区分表(一)」の
「5.退去跡補修費等負担基準」(以下「本件負担区分表」という。)に基づいて負担することになる旨の
説明がされたが,本件負担区分表の個々の項目についての説明はされなかった。
上告人は,自分の代わりに妻の母親を上記説明会に出席させた。
同人は,被上告人の担当者の説明等を最後まで聞き,配布された書類を全部持ち帰り,上告人に交付した。

(4) 上告人は,平成10年2月1日,被上告人との間で,
本件住宅を賃料月額11万7900円で賃借する旨の賃貸借契約を締結し
(以下,この契約を「本件契約」,これに係る契約書を「本件契約書」という。),
その引渡しを受ける一方,同日,被上告人に対し,本件契約における敷金約定に基づき,
敷金35万3700円(以下「本件敷金」という。)を交付した。
なお,上告人は,本件契約を締結した際,
本件負担区分表の内容を理解している旨を記載した書面を提出している。

(5) 本件契約書22条2項は,賃借人が住宅を明け渡すときは,
住宅内外に存する賃借人又は同居者の所有するすべての物件を撤去してこれを原状に復するものとし,
本件負担区分表に基づき補修費用を被上告人の指示により負担しなければならない旨を定めている
(以下,この約定を「本件補修約定」という。)。

(6) 本件負担区分表は,補修の対象物を記載する「項目」欄,
当該対象物についての補修を要する状況等(以下「要補修状況」という。)を記載する
「基準になる状況」欄,補修方法等を記載する「施工方法」欄及び補修費用の負担者を記載する
「負担基準」欄から成る一覧表によって補修費用の負担基準を定めている。
このうち,「襖紙・障子紙」の項目についての要補修状況は
「汚損(手垢の汚れ,タバコの煤けなど生活することによる変色を含む)・汚れ」,
「各種床仕上材」の項目についての要補修状況は「生活することによる変色・汚損・破損と認められるもの」,
「各種壁・天井等仕上材」の項目についての要補修状況は「生活することによる変色・汚損・破損」というものであり,
いずれも退去者が補修費用を負担するものとしている。
また,本件負担区分表には,「破損」とは「こわれていたむこと。また,こわしていためること。」,
「汚損」とは「よごれていること。または,よごして傷つけること。」であるとの説明がされている。

(7) 上告人は,平成13年4月30日,本件契約を解約し,被上告人に対し,
本件住宅を明け渡した。被上告人は,上告人に対し,本件敷金から本件住宅の補修費用として
通常の使用に伴う損耗(以下「通常損耗」という。)についての補修費用を含む
30万2547円を差し引いた残額5万1153円を返還した。
2 本件は,上告人が,被上告人に対し,被上告人に差し入れていた本件敷金のうち
未返還分30万2547円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案であり,
争点となったのは,
1 本件契約における本件補修約定は,上告人が本件住宅の通常損耗に係る
補修費用を負担する内容のものか,
2 1が肯定される場合,本件補修約定のうち通常損耗に係る補修費用を
上告人が負担することを定める部分は,法3条6号,特定優良賃貸住宅の供給の促進に
関する法律施行規則13条等の趣旨に反して賃借人に不当な負担となる賃貸条件を
定めるものとして公序良俗に反する無効なものか,
3 本件補修約定に基づき上告人が負担すべき本件住宅の補修箇所及び
その補修費用の額の諸点である。
3 原審は,前記事実関係の下において,上記2の1の点については,これを肯定し,
同2の点については,これを否定し,同2の点については,上告人が負担すべきものとして
本件敷金から控除された補修費用に係る補修箇所は本件負担区分表に定める基準に合致し,
その補修費用の額も相当であるとして,上告人の請求を棄却すべきものとした。
以上の原審の判断のうち,同1の点に関する判断の概要は,次のとおりである。

(1) 賃借人が賃貸借契約終了により負担する賃借物件の原状回復義務には,
特約のない限り,通常損耗に係るものは含まれず,その補修費用は,賃貸人が負担すべきであるが,
これと異なる特約を設けることは,契約自由の原則から認められる。

(2) 本件負担区分表は,本件契約書の一部を成すものであり,その内容は明確であること,
本件負担区分表は,上記1(6)記載の補修の対象物について,
通常損耗ということができる損耗に係る補修費用も退去者が負担するものとしていること,
上告人は,本件負担区分表の内容を理解した旨の書面を提出して
本件契約を締結していることなどからすると,本件補修約定は,
本件住宅の通常損耗に係る補修費用の一部について,本件負担区分表に従って
上告人が負担することを定めたものであり,
上告人と被上告人との間には,これを内容とする本件契約が成立している。
4 しかしながら,上記2の1の点に関する原審の上記判断のうち(2)は是認することができない。

その理由は,次のとおりである。

(1) 賃借人は,賃貸借契約が終了した場合には,
賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ,
賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,
賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。
それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に
生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,
通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませて
その支払を受けることにより行われている。

そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての
原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,
賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる
通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,
仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,
賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,
その旨の特約(以下「通常損耗補修特約」という。)が明確に合意されていることが必要である
と解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると,本件契約における原状回復に関する約定を定めているのは
本件契約書22条2項であるが,その内容は上記1(5)に記載のとおりであるというのであり,
同項自体において通常損耗補修特約の内容が具体的に明記されているということはできない。
また,同項において引用されている本件負担区分表についても,その内容は上記1(6)に
記載のとおりであるというのであり,要補修状況を記載した「基準になる状況」欄の文言自体からは,
通常損耗を含む趣旨であることが一義的に明白であるとはいえない。
したがって,本件契約書には,通常損耗補修特約の成立が認められるために
必要なその内容を具体的に明記した条項はないといわざるを得ない。
被上告人は,本件契約を締結する前に,本件共同住宅の入居説明会を行っているが,
その際の原状回復に関する説明内容は上記1(3)に記載のとおりであったというのであるから,
上記説明会においても,通常損耗補修特約の内容を明らかにする説明はなかったといわざるを得ない。
そうすると,上告人は,本件契約を締結するに当たり,通常損耗補修特約を認識し,
これを合意の内容としたものということはできないから,
本件契約において通常損耗補修特約の合意が成立しているということはできないというべきである。

(3) 以上によれば,原審の上記3(2)の判断には,
判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨は,この趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。
そして,通常損耗に係るものを除く本件補修約定に基づく補修費用の額について更に
審理をさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 滝井繁男 裁判官 津野 修 裁判官 今井 功 裁判官 古田佑紀)

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<資料>

判例紹介

店舗等を目的とする建物賃貸借契約の際に保証金として支払われた賃料の約22.5ヶ月分に
相当する金員が敷金としての性質を有しないとされた事例
(大阪高裁平成14年4月17日判決、判例タイムズ1104号)

(事案の概要)

賃借人は、昭和59年3月、ショールームの使用目的で、契約期間10年、賃料443万円、
敷金1283万円、保証金9977万円の約定で賃借した。
保証金については、10年間据置のうえ翌年から5年の年賦で返還するが賃貸借契約日から
5年内に解約したときは20パーセントの解約金が控除されるという特約が付いていた。
賃借人は、昭和60年8月、賃料を支払えなかったので、賃貸借契約を解約して建物を明渡し、
敷金の返還を受けた。
しかし、保証金は据置期間未到来のためにそのままになっていたところ、
国税が保証金返還債権を差し押さえ、家主に対して、保証金9977万円の取立を請求した。
家主は、賃借人に対する未払い賃料、期間内解約による違約金、共益費、電気料金、
原状回復費等の清算が済んでないので、保証金返還額は1066万円分しか残っていないと争った。
そこで本件保証金は、敷金のように賃貸契約上の債務を清算すべき性質のものなのかどうかが問題となった。

(判決要旨)

「本件保証金が差し入れられたのは、本件建物の建築資金が必要な時期であって、
本件保証金は多額であるほか無利息で返還する約定があることからすれば、
銀行からの借入金に比して金利分の節約ができることから賃貸人にとって有利であることが明らかであるから、
通常であればこれを建設資金などに充当すると考えられるし、
賃貸人がこの保証金を他に使ったことを客観的に説明しない以上、
本件保証金は本件建物の建設資金に充当することを主目的として差し入れられたものと推認すべきである。

本件保証金の敷金としての担保機能の有無について検討する。
本件契約では、敷金と保証金を別個に規定し、敷金については、
賃借物件明け渡し後債務完済を確認したときに返還する旨規定しているのに、
本件保証金については本件据置規定が存在するだけで、
賃貸借終了時の返還義務の有無については何ら触れていないので、
敷金と同様の担保的機能を有し賃借物件の明け渡し時に契約上の債務と清算した上で
賃借人に返還すべきものであるとはいえない。」

(説明)

保証金の性質については、建設協力金、敷金、即時解約金、権利金のいずれか、
又はこれらを併せ持ったものなど、さまざまであり、契約文言、金額、差し入れの趣旨などから、
賃貸借当事者間の意思を解釈して結論される。本件では、金額が多額あること、
返還時期が契約終了と無関係であること、使途が建築資金であること等から、敷金ではないとされた。

消費者契約法1

(1)消費者契約法の消費者とは借家人で建物を住居として利用する個人

2001年4月1日から消費者契約法が施行されています。「消費者」と「事業者」
この法律で最も特徴がある点は、「事業者」と「消費者」の定義です。

「事業者」とは、1「法人その他の団体」、
2「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」です。
それ以外の個人はすべて「消費者」です。

「事業」とは、一定の目的をもった同種の行為がくり返し行われるものであり、
営利目的の有無は問いません。この定義は非常に広いもので、国も「事業者」に
なりえます。
消費者と事業者の間でなされる契約を「消費者契約」といいます。
この「消費者契約」というのは、個別の売買契約、工事請負契約とは別の次元に
なり、個別の契約の上に消費者契約という網をかぶせるものです。

借地借家人は「消費者」

借地借家契約と消費者契約の関係は次ぎのようになります。

(例1)
個人の家主と個人の借家人が住居目的で借家契約をした場合、
家主は事業として貸家契約をするので「事業者」になります。
借家人は、個人で、しかも事業のための借家契約ではないので、
「消費者」になります。この借家契約は「消費者契約」です。

(例2)
個人の家主と個人の借家人が店舗目的で借家契約をした場合、
借家人は、個人ですが店舗営業という事業のために借家契約をするので
「消費者」には該当せず、この借家契約は「消費者契約」ではありません。

(例3)
個人の家主と会社名義で住居として借家契約をした借家人は、
たとえ住居目的であっても、契約の当事者が個人でなく会社名義なので、
「消費者」には該当せず、この借家契約は「消費者契約」ではありません。

では、借地借家契約が「消費者契約」である場合、借地借家人はどんな権利行使
ができるのか?
(2)事実と異なることを告げられた賃料
値上げや更新料の支払約束は取消せる

消費者の取消権

消費者契約をする場合、事業者は、1重要事項について事実と異なることを告
げたり(不実告知)、
2将来の価額、金額、価値の変動が不確実な事項について、
断定的な言い方をして(断定的判断の提供)契約をすることができません。

また、事業者は、3ある重要事項やそれに関連する事項について、
消費者の利益となることだけを強調し不利益になることを隠して
(不利益事実の不告知)契約することができません。
事業者は、消費者に比べれば、売りつける物品、サービスあるいは契約内容に
ついて、圧倒的な情報を握っています。情報量の格差をこれ幸いに消費者をだま
すような契約は不公正です。消費者契約法は、前記の3点のようなことがあった
場合、消費者にあとから契約を取り消す権利を与えました。
借地借家契約の場合

消費者契約法は、平成13年4月1日からの施行ですから、
この法律が適用されるのは、4月1日以降の契約に限られます。
しかし、それ以前からの借地人、借家人は、この法律を使えないのかといえば、
そうではありません。

当初の借地借家契約が平成13年4月1日以前であっても、その借地借家契約に付
随して、例えば、地代家賃の値上に関する契約、更新料支払に関する契約、一時
立退再入居に関する契約、
立退に関する契約、借地建物増改築に関する契約、更新に関する契約など、当事
者間で取り交わす合意事項があります。
これらの付随的合意は、その一つ一つが消費者契約となり得る別個の契約であり、
既存の借地借家であっても、平成13年4月1日以降になされるこれらの契約(合意
)には適用されます。
(例1)賃料値上問題

地主・家主が今年は税金が上がったので賃料を上げてくれといってきた。
借地借家人は止むを得ないと思って値上に応じたが、実は税金は上がっていなかった。

賃料増額契約について公租公課額の増減は重要事項なので、
この点で事実と異なることを告げられて増額を承諾した借地借家人は、
増額合意を取消すことができる。
(例2)借地更新料支払問題

更新料支払約束のない借地契約なのに地主は更新料を要求した。
その理由として、法律でも支払うことになっているし、
自分の貸地の借地人は全員が払っていると説明した。
借地人は、しぶしぶ更新料を払うと約束してしまったが、
地主の借地人の中には払っていない人も数人いたことがわかった。

この場合、支払約束のない更新料について支払義務があるという法律はないし、他の
借地人全員が支払っているということも事実と異なっており、
いずれも重要事項と言えるので、この借地人は、更新料支払約束を取消すことができる。

借地借家人が取り消せる契約のあり方は、もう一つあります。
(3)解約後賃料の5倍の損害金を払うなど
借家人に不利益になる約定は無効

不退去・監禁
消費者契約法は、自宅を訪れた事業者に対し退去を求めたのに
退去しないで契約をさせられた場合(不退去型契約)や事業者の事務所などに呼ばれた
消費者が帰りたがっているのに帰してもらえないまま契約をさせられた場合(監禁型契
約)、その契約を取消すことができると定めています。借地借家のケースを想定すると、

(例3)明渡し約束

借家契約の更新期に家主が自宅にやってきて、今回は更新するが次回には更新しない
ので
そのことを契約書に書き入れてくれ、書かないのであれば更新しないと要求。
借家人は、よく考えて返事するから帰ってくれと答えるが、
家主は、今了解しないのなら更新はしないと迫り、
困り果てて家主の言とおりに契約書に印を押してしまった。

これは、不退去型の困惑契約になるので、借家人は取消すことができる。

以上ですが、消費者契約で取消せる契約をまとめると、
不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知により消費者が誤認した場合、不退
去、監禁により消費者が困惑した場合ということになります。

事業者の代理人

消費者に誤認をさせる、困惑させることは事業者本人でなくともできます。
事業者から契約の委託を受けた者あるいは代理人となった者が同じことをすれば、消費
者は、事業者が行ったのと同様に契約を取消すことができます。
借地借家の場合は、不動産仲介業者が地主、家主の代理人となることが多いですが、事
業者と同じと扱われることになります。

取消権行使の期限

消費者に契約の取消権がある場合、権利行使には時間の制限があります。
不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知の場合は
消費者が誤認したことに気付いたときから、不退去、監禁の場合は不退去、
監禁が終わったときから、6か月以内に取消さなければなりません。
また、契約してから五年経つと無条件に取消すことができなくなります。

契約条項無効

消費者契約法は、消費者に不当な不利益を与える契約条項は
無効である旨定めています。たとえば、借家契約書に、
賃貸借契約解除後立ち退くまでの間、契約家賃の5倍の損害金を支払うことが明記されて
いたとします。このような損害金条項については、
「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものは、
超える部分については無効」とされます。

何が平均的な損害の額かは明白ではありませんが、
新規に賃貸すれば得られるであろう賃料額と考えればいいと思います。
また、賃料滞納した場合、滞納賃料に年20%の遅延利息を付すという条項があったとす
ると、消費者契約法では上限を14.6%としていますので、これを超える部分は無効と
なります。

賃料減額しない旨の特約があっても借主の減額請求権が認められた事例

建物所有を目的とする土地の賃貸借契約において、

賃料を減額しない旨の特約があっても、

賃借人から借地借家法第11条の規定に基づく賃料減額請求権の行使が

認められた事例 (最高裁平成16年6月29日判決、判例時報1868号52頁)

(事案の概要)

本件土地賃貸借契約は、「3年ごとに賃料の改定を行うものとし、

改定後の賃料は従前の賃料に消費者物価指数の変動率を乗じ、

公租公課の増減額を加除した額とするが、

消費者物価指数が降下しても賃料を減額することはない」旨の特約が付されていた。

これまで、本件土地の賃料は、本件特約に従って3年ごとに改定されてきたが、

賃借人は、「その後土地の価格が4分の1程度に下落したことなどに照らして

現在の賃料額は高すぎる」と主張して、賃貸人に対して賃料の減額を請求し、

減額後の賃料額の確認を求めて本件訴訟を提起した。

これに対し、原審の大阪高等裁判所は、「本件のような賃料の改定特約は、

賃料の改定をめぐって当事者間に生じがちな紛争を事前に回避するために、

改定の時期、賃料額の決定方法を定めておくものであり、本件特約は、

消費者物価指数という客観的な数値であって賃料に影響を与えやすい要素を

決定基準とするものであるから有効である。

したがって、本件特約に基づかない賃借人らの賃料減額請求の

意思表示の効力を認めることはできない」として賃借人の請求を棄却した。

そこで、賃借人は、原判決を不服として、最高裁に上告受理の申立てを行った。

(判決)

最高裁は、上告受理の申立てを受理し、『本件土地賃貸借契約においては、

消費者物価指数が降下したとしても賃料を減額しない旨の特約が存する。

しかし、しかし、借地借家法第11条1項の規定は、強行法規であって、

本件特約によってその適用を排除することができないものである。

したがって、賃貸借契約の当事者は、本件特約が存することにより

借地借家法第11条1項の規定に基づく賃料減額請求権の行使を

妨げられるものではないと解すべきである。』と判示した。

(短評)

本件は、賃料改定特約がある場合に、

特約に基づく請求ではなく(本件では「減額することはないとの定め」が

あるためその余地はないが)、借地借家法第11条に基づく賃料減額請求が

できるかがあらそわれた事案であるが、特約によっても減額請求を制限することは

できないとのこれまでの最高裁判例を確認したものである。

本判決は、賃料の減額をしない特約が明らかに存する場合においても、

賃借人からの賃料減額請求が認められた点において事例的な意義がある。

消費者契約法1

(1)消費者契約法の消費者とは借家人で建物を住居として利用する個人

2001年4月1日から消費者契約法が施行されています。

「消費者」と「事業者」

この法律で最も特徴がある点は、「事業者」と「消費者」の定義です。

「事業者」とは、?「法人その他の団体」、

?「事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」です。

それ以外の個人はすべて「消費者」です。

「事業」とは、一定の目的をもった同種の行為がくり返し行われるものであり、

営利目的の有無は問いません。この定義は非常に広いもので、国も「事業者」になりえます。

消費者と事業者の間でなされる契約を「消費者契約」といいます。

この「消費者契約」というのは、個別の売買契約、工事請負契約とは別の次元になり、

個別の契約の上に消費者契約という網をかぶせるものです。

借地借家人は「消費者」

借地借家契約と消費者契約の関係は次ぎのようになります。

(例1)

個人の家主と個人の借家人が住居目的で借家契約をした場合、

家主は事業として貸家契約をするので「事業者」になります。

借家人は、個人で、しかも事業のための借家契約ではないので、

「消費者」になります。この借家契約は「消費者契約」です。

(例2)

個人の家主と個人の借家人が店舗目的で借家契約をした場合、

借家人は、個人ですが店舗営業という事業のために借家契約をするので

「消費者」には該当せず、この借家契約は「消費者契約」ではありません。

(例3)

個人の家主と会社名義で住居として借家契約をした借家人は、

たとえ住居目的であっても、契約の当事者が個人でなく会社名義なので、

「消費者」には該当せず、この借家契約は「消費者契約」ではありません。

では、借地借家契約が「消費者契約」である場合、借地借家人はどんな権利行使ができるのか?

(2)事実と異なることを告げられた賃料

値上げや更新料の支払約束は取消せる

消費者の取消権

消費者契約をする場合、事業者は、?重要事項について事実と異なることを告げたり(不実告知)、

?将来の価額、金額、価値の変動が不確実な事項について、

断定的な言い方をして(断定的判断の提供)契約をすることができません。

また、事業者は、?ある重要事項やそれに関連する事項について、

消費者の利益となることだけを強調し不利益になることを隠して

(不利益事実の不告知)契約することができません。

取引社会ではあの手この手の方便を使って、事業者は契約を勧誘します。

事業者は、消費者に比べれば、売りつける物品、サービスあるいは契約内容について、

圧倒的な情報を握っています。

情報量の格差をこれ幸いに消費者をだますような契約は不公正です

消費者契約法は、前記の3点のようなことがあった場合、

消費者にあとから契約を取り消す権利を与えました。

借地借家契約の場合

消費者契約法は、平成13年4月1日からの施行ですから、

この法律が適用されるのは、4月1日以降の契約に限られます。

しかし、それ以前からの借地人、借家人は、この法律を使えないのかといえば、そうではありません。

当初の借地借家契約が平成13年4月1日以前であっても、その借地借家契約に付随して、

例えば、地代家賃の値上に関する契約、更新料支払に関する契約、一時立退再入居に関する契約、

立退に関する契約、借地建物増改築に関する契約、更新に関する契約など、

当事者間で取り交わす合意事項があります。

これらの付随的合意は、その一つ一つが消費者契約となり得る別個の契約であり、

既存の借地借家であっても、平成13年4月1日以降になされるこれらの契約(合意)には適用されます。

(例1)賃料値上問題

地主・家主が今年は税金が上がったので賃料を上げてくれといってきた。

借地借家人は止むを得ないと思って値上に応じたが、実は税金は上がっていなかった。

賃料増額契約について公租公課額の増減は重要事項なので、

この点で事実と異なることを告げられて増額を承諾した借地借家人は、

増額合意を取消すことができる。

(例2)借地更新料支払問題

更新料支払約束のない借地契約なのに地主は更新料を要求した。

その理由として、法律でも支払うことになっているし、

自分の貸地の借地人は全員が払っていると説明した。

借地人は、しぶしぶ更新料を払うと約束してしまったが、

地主の借地人の中には払っていない人も数人いたことがわかった。

この場合、支払約束のない更新料について支払義務があるという法律はないし

他の借地人全員が支払っているということも事実と異なっており、

いずれも重要事項と言えるので、この借地人は、更新料支払約束を取消すことができる。

借地借家人が取り消せる契約のあり方は、もう一つあります。

(3)解約後賃料の5倍の損害金を払うなど

借家人に不利益になる約定は無効

不退去・監禁

消費者契約法は、自宅を訪れた事業者に対し退去を求めたのに

退去しないで契約をさせられた場合(不退去型契約)や事業者の事務所などに

呼ばれた消費者が帰りたがっているのに帰してもらえないまま契約をさせられた場合(監禁型契約)、

その契約を取消すことができると定めています。借地借家のケースを想定すると、

(例3)明渡し約束

借家契約の更新期に家主が自宅にやってきて、今回は更新するが次回には更新しないので

そのことを契約書に書き入れてくれ、書かないのであれば更新しないと要求。

借家人は、よく考えて返事するから帰ってくれと答えるが、

家主は、今了解しないのなら更新はしないと迫り、

困り果てて家主の言とおりに契約書に印を押してしまった。

これは、不退去型の困惑契約になるので、借家人は取消すことができる。

以上ですが、消費者契約で取消せる契約をまとめると、

不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知により消費者が誤認した場合、

不退去、監禁により消費者が困惑した場合ということになります。

事業者の代理人

消費者に誤認をさせる、困惑させることは事業者本人でなくともできます。

事業者から契約の委託を受けた者あるいは代理人となった者が同じことをすれば、

消費者は、事業者が行ったのと同様に契約を取消すことができます。

借地借家の場合は、不動産仲介業者が地主、家主の代理人となることが多いですが、

事業者と同じと扱われることになります。

取消権行使の期限

消費者に契約の取消権がある場合、権利行使には時間の制限があります。

不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知の場合は

消費者が誤認したことに気付いたときから、不退去、監禁の場合は不退去、

監禁が終わったときから、6か月以内に取消さなければなりません。

また、契約してから五年経つと無条件に取消すことができなくなります。

契約条項無効

消費者契約法は、消費者に不当な不利益を与える契約条項は

無効である旨定めています。たとえば、借家契約書に、

賃貸借契約解除後立ち退くまでの間、契約家賃の5倍の損害金を支払うことが

明記されていたとします。このような損害金条項については、

「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものは、

超える部分については無効」とされます。

何が平均的な損害の額かは明白ではありませんが、

新規に賃貸すれば得られるであろう賃料額と考えればいいと思います。

また、賃料滞納した場合、滞納賃料に年20%の遅延利息を付すという条項があったとすると、

消費者契約法では上限を14.6%としていますので、これを超える部分は無効となります。

賃貸住宅の更新料は払わなくてよい?家賃引き下げる絶好の機会?その具体的交渉法とは

 2年に一度、必ずやってくる「家計の悪魔」と言ったら、あなたは何を思い浮かべるだろうか? ひとつは自動車の車検(新車購入時は3年後)で、もうひとつが賃貸住宅の更新料なのではないか。

 毎月払っている家賃とは別に、その月だけ、次の2年間の賃貸借契約を再締結するために、店子側が1カ月分余計に払わないといけない。かつては関東など一部地域のローカルルールだったが、いまや全国的な慣習になりつつある。ぼんやりしていると、とたんに家計が赤字に陥ってしまうのではなかろうか。

 しかし、ものは考えよう。更新が近づいてきた時期は、絶体絶命のピンチどころか、「家計の悪魔」を退治する絶好のチャンスでもある。取り組み方によっては、家賃を大幅に下げるか、もしそれがかなわないとすれば、更新料をその年だけでなく、引っ越さない限りは二度と払わないようにすることだって可能なのだ。

●具体的な値下げ交渉の例

 年々家賃が下落していくなか、同じ物件に長く住み続けている人ほど、世間相場より高い家賃を払わされているケースが多い。もし、明らかに高い家賃を払っていることが判明した場合は、近隣同種と同じ家賃にしてもらえるよう、大家(交渉窓口は管理会社)と交渉すべきなのだが、その絶好のタイミングなのが更新を目前に控えた時期なのである。

 管理会社から「更新のお知らせ」なる文書が届いたら、その返信として、家賃値下げの要請を行えばよい。2年間の契約期間が満了するに当たって、退去せずに再度次の2年間の契約を更新してあげる代わりに、家賃の値下げを要請するのである。具体的な文例を以下に掲載しておこう。

「海千山千不動産・賃貸管理部
○○マンション担当者様

前略
お送りいただきました『更新のお知らせ』につきまして、取り急ぎ回答いたします。
私が入居した○年前とは経済事情が大きく変わり、近隣同種の家賃は大幅に下がっています。つきましては、現在○万円の家賃を、近隣同種と同水準の○万円にしていただきたく存じます(ご参考までに近隣データを同封しました)。
もし、この額にご同意いただけるようでしたら、新賃料が記載された更新書類をご送付下さい。また、現行賃料のまま据え置かれるのでしたら、引っ越しを検討いたしますので、○年○月○日まで、その旨お知らせいただきたく存じます。
以上、よろしくお願いいたします。
草々
○年○月○日  ○○マンション△△号室入居者 ○○」
(出典:『家賃を2割下げる方法』<日向咲嗣/三五館>)

 交渉が苦手な人でも、決まった文書を書いて送るだけならば抵抗なくできるはず。

このとき、事前に導き出した適正家賃の根拠を明示しておくのがコツ。例えば、いま家賃8万円を払っているのに、賃貸サイトで検索すると同じアパート・マンションの隣の部屋が7万円で入居者を募集していたら、その募集データを印刷して同封しておくのである。

あとは、先方からの連絡を待つのみと言いたいところだが、念のため文書を送付した数日後にちゃんと先方に届いているかどうかだけは、担当者に電話で確認しておきたい。あとで「そんなものは届いていない」と言い逃れされないためだ。届いていることさえ確認されれば、「ご検討お願いします」と一言添えておけばよい。

●大家サイドの対応次第で、引っ越しも検討

 値下げレターに対する大家サイドの反応は、以下の4パターンに分かれる。

(1)何の返事もこない
(2)要求した額の値下げは無理だが、一部減額なら応じられるとの回答が来る
(3)減額には一切応じられないと拒否の回答が来る
(4)こちらの要求を全面的に受け入れた満額回答が来る

 最も望ましいのは、やはり(4)の満額回答パターンだが、現実にはあまり期待はできない。ただ、契約を何度も更新して10年以上住み続けていて、その間一度も家賃改定が行われていなかったり、好景気の時期にロクに比較もせずに入居した人ならば、2割程度の値下げを要求しても、それがすんなり通る可能性は十分にある。うまくいけば、一枚のレターを送るだけで総額何十万円ものお金が浮くことになるのだから、相当にコストパフォーマンスが高い交渉といえるだろう。

 意外にやっかいなのが、(2)の一部減額パターン。値下げ要求額1万円に対して、5000円の減額回答ならば、引っ越しに伴う諸々のめんどうや費用を考慮して妥協してもいいという考え方も当然ありえるだろうが、減額回答が2000円程度の中途半端だった場合にどう判断するかが難しいところ。

 月2000円では、2年間の総額で4万8000円しか浮かない。確実に毎月1万円安くなる部屋に引っ越して2年間で24万円浮くのと比較すれば、あまりにも少ない。さらに引っ越し先が入居時にフリーレント(一定期間家賃無料特約)付きなら、それだけで引っ越し費用の大半は賄えるはずだから、更新はキッパリお断りして、引っ越したほうがはるかに有利という結論に達するだろう。

●合法的に更新料をなくす裏技

 また、(1)と(3)はいずれも完全にノーの意思表示だ。家賃減額に関しては、ほぼ絶望的だ。これ以上交渉しても、無駄な努力になりかねないため、さっさとあきらめるしかないといいたいところだが、実は、このパターンになったときこそが更新料を合法的にカットできる、またとないチャンスなのである。

 具体的にどうすればよいかというと、何もしなくていい。

 管理会社から送られてきた契約更新書類、更新する場合は署名捺印して返送するが、これをただ放置しておけばよい。そして、そのまま契約が満了する日まで待ち、満了日以降もこれまでと同じ家賃を払い続ける。もちろん、更新料は1円も払わない。

「そんなことしたら、大家に追い出されてしまう」

 そう心配するかもしれないが、現実には、まずそんな事態は起こらない。なぜならば、店子は「借地借家法」という法律で手厚く守られているからだ。詳しくは次回解説するが、一般の賃貸住宅の契約において、契約期間満了後も家賃を滞納することなく住み続けていれば、たとえ大家と条件面で合意に達していなくても、契約が満了した後、これまでと同じ条件で契約は自動更新されたものとみなすことになっているのである(借地借家法第26条に規定。これを「法定更新」と呼ぶ)。

 しかも、そうして法定更新された契約は「期間の定めのないものとする」とされているため、一度自動更新してしまえば、これまで2年ごとに払っていた更新料は、よそに引っ越さない限り、永遠に払わなくてよくなる。

 大家サイドとしては、それでも更新料を取りたかったら、改めて家賃交渉のテーブルにつき、多少の譲歩をした額で店子と契約を正式に締結する(「合意更新」と呼ぶ)しかない。つまり、家賃を下げずに更新料をあきらめるか、更新料は通常通りもらう代わりに家賃を下げるか、そのどちらかを選択するしかない事態に追い込めるのである。

 自分に味方してくれる法律を知ってさえいれば、確実にトクできる典型例といえるだろう。