敷金を取り戻す最終手段! 「少額訴訟」の費用と手続き

残念ながら敷金返還でもめてしまった場合はどうすればいいのでしょう。最近では、「仕方がない」と泣き寝入りする人は減っているとか。今回は賃貸における敷金トラブルの最終的な対処手段について紹介します。

■まず各都道府県の不動産窓口に相談して、理論武装する

「原状回復の費用に関して納得いかない」、「立会いしなかったら、後で高額な請求がきた」などの場合は、まず電話もしくは書面(メール、FAX)で交渉を。不安なら、各都道府県にある不動産相談窓口や国民生活センターに、自分のケース、大家や不動産会社の言い分も合わせて相談し、理論武装しておくのも有効です。例えば不動産会社から「国土交通省のガイドラインは法律ではないんですよ(だから守る必要はありません)」と言われたとしても、「消費者契約法」「借地借家法」という法律もあり、「通常使用による消耗の修繕費用は貸主負担」としている判例もたくさんあります。

※敷金診断士の作成した査定書が有効です

 

■意外と簡単? 最終的には少額訴訟で対抗

敷金トラブルでもめた場合の最終手段は「少額訴訟」です。これは60万円以下の金銭の支払いを求める場合で、紛争の内容があまり複雑でない民事訴訟の手続き。弁護士を立てずに訴訟が起こせるため、敷金返還トラブルではよく利用されるポピュラーなものです。

「訴訟というと、面倒、お金がかかる、と思われがちかもしれませんが、手数料は数千円と安く、簡易裁判所に足を運べば、そこの担当官がていねいに書類の書き方を教えてくれるはずです。少額訴訟を行った私の友人は“思っていたい以上に簡単だった”と言っていました」(長谷川さん)。もちろん訴訟結果はケースバイケースで、「訴訟すれば必ず勝てる」というものではありません。ただし最終手段として少額訴訟という選択肢があることを知っておいて損はないのではないでしょうか。

■敷金返還で泣き寝入りする人は減っている

ここまで「敷金返還でもめた場合の対処法」について説明してきましたが、実は、敷金トラブルは減少傾向にあるようです。国民生活センターの発表でも、賃貸住宅の敷金および原状回復トラブルの相談件数は減っています。「理由は2つ。ネットを通して誰もが敷金返還のルールや判例を知ることができるようになったこと。もうひとつは賃貸住宅の空き室が増え、部屋を借りる側のほうが有利になったこと。敷金を多く取ったり、戻さないような賃貸経営は成り立たなくなっているでしょう」(長谷川さん)。
敷金返還に関しては、自分できちんと調べて、交渉する姿勢が大事といえるでしょう。

相談件数の推移(出典:国民生活センター)※編集部が加工

(SUUMOジャーナルより)

契約の拒否2

入居直前に、家主から「手付金の倍返しを行うので契約解除する」という通告を受けた。
そんなことはできないと考えているが、どうすればよいのか?

(回答)

契約そのものは、借主からの「申し込み」と、
それに対する家主の「承諾」によって成立します。
これを「諾成契約」と呼んでいます。

しかし、それだけだと、契約したかどうかが明確にならないため、
建物の賃貸借では、手付金の授受が必要とされています。
つまり、借主が手付金を支払うことで、契約が成立することになるのです。

その後、契約期間開始までに契約解除する場合には、借主からの場合には、
「手付金の放棄」、家主からは、「手付金の倍返し」を行うという
法律上の規定(ルール)があります。

したがって、家主から契約解除する場合には、手付金の倍返しが必要となります。
逆に言えば、手付金の倍返しを越える請求を行うことはできないのです。

契約の拒否1

申込金を支払ったのに、数日後、仲介業者から
「家主の知り合いが入居することになったので諦めて」という連絡が入りました。
あとから申し込んだ人が優先されるのは納得できないのだが…。

(回答)

契約が成立しているかどうかがポイントです。
契約が成立するためには、借主が申し込みをした上で、
家主が承諾していなければなりません。

家主が明確に承諾の意思を示していればよいのですが、
家主からの承諾を得ていなければ、契約として成立しているとは言えません。

一方、管理会社が、家主の代理権を得て、手付金の受け取りを行っている場合には、
契約が成立していると言えますので、領収書や手続き書類をみて、
支払ったお金が、手付金なのか、それとも単なる申込金なのかを確認してください。

単なる申込金である場合には、契約が成立しているとは言えませんので、
法的には何の権利もありません。

家主には、借主を選択する権利がありますので、
まだ契約が成立していない段階では、
あとから申し込んだ人を契約させることに何の法的問題も生じないのです。

つまり、申し込みの順序は、契約優先の順序ではないので、
残念ながら、あきらめるしかないでしょう。

ただし、もし、「手付金」として支払っていた場合には、
「解約手付」として「手付金の倍返し」、つまり、
支払った手付金の倍額の返金を受けることができます。

定期借家契約

定期借家契約の物件を契約することになったが、
ふつう、定期借家契約の場合には礼金はいらないと聞いていたが、
多額の礼金がいるという説明を受けた。物件自体は気に入っているので、
礼金の支払いなしに契約したいが可能か?

(回答)

「礼金」というのは、敷金などとは異なり、もともと、法的にはっきりした根拠のないお金です。

ふつうの賃貸借契約においては、「家賃の前払い」的なものであるとか、
「賃借権設定の対価」であるとか、立退き料支払いのための準備金的なものであるとか、
さまざまな解釈がされています。

ところで、定期借家契約の場合には、立退き料の支払いが不要であるため、
通常は、礼金が不要とされています。
しかし、定期借家契約では、礼金は取れないという制限はありませんので、
礼金が設定されている場合もあります。

家主との交渉で、礼金の支払いを免除してもらうか、
それが不可能なら、諦めて契約するか、
それとも、契約そのものをやめるかのいずれかになるでしょう。

契約の成立5

申込書を提出し、手付金も支払い、その後、契約金の残金も支払っていたが、
たまたま他に条件のよい物件が見つかったので、家主に、
「ある事情から解約したい。まだカギ渡ししていないので、法的には、
『契約の履行の着手』前であるので、手付金の放棄で解約する」という連絡を行った。

しかし、家主は、「契約金をすべて受け取っているので、手付金の放棄だけでは解約できず、
礼金も返せない」と言ってきた。このような場合、礼金の返還はしてもらえないのか?

(回答)

前回でも述べているように、借主が手付金の放棄で解約できるのは、
契約の相手側(家主)が「契約の履行に着手するまで」とされています。
そして、家主の「契約の履行に着手」することは、カギ渡しが代表例とされています。

今回のケースでは、借主としては、契約の履行への着手行為として、
契約金のすべてを支払っていますが、契約の相手側の家主は、
まだ契約の履行に着手しているとは言えないというのが一般的な解釈ですので、
手付金の放棄で解約できることになります。

しかし、契約金の残金まで支払っていながら、
「他に条件のよい物件を探していた」という行為自体は、
家主に対する裏切り行為ではないでしょうか?

つまり、判例などによれば、手付金の放棄だけで解約することはできることになりますが、
家主のリスク(次の入居者を急きょ探すことになるため、
すぐに入居者が見つからない可能性がある)を考慮すれば、
礼金の一部は支払ってもよいと思います。

契約の成立4

申込書を提出し、手付金も支払い、その後、契約金の残金も支払っていたのに、
入居予定日の直前になって、管理会社から、「ある事情から、入居不能になった。
しかし、まだカギ渡ししていないので、法的には、『契約の履行の着手』前であるので、
手付金の倍返しを行って解約する」という連絡を受けた。
現在住んでいる物件の退去通知も行ったため、
いまさら契約できないといわれても困るのだが、何とかならないか?

(回答)

手付金の支払い後、借主が手付金の放棄で、家主が手付金の倍返しで、
解約できるのは、「相手側が契約の履行に着手するまで」となっています。
借主から解約できるのは、家主からカギを受け取るまでとされているのに対し、
家主から解約できるのは、借主が契約の履行に着手する(=契約金の残金をすべて支払うなど)までです。
つまり、カギ渡し前だという理由で解約することができるのは、借主であって、家主ではないのです。

借主が契約金をすべて振込んでいたような場合には、家主は手付金の倍返しでは済まされず、
借主が負った損害についてすべてを弁償しなければなりません。
具体的には、入居できなくなったことで発生する費用(次の物件の契約のための費用や引越し代など)は、
家主が負担しなければなりません。

契約の成立3

申込書を提出し、手付金も支払っていたのに、後日、仲介業者から、
「家主の都合で入居できなくなったが、まだ、連帯保証人の保証書が提出されておらず
契約は正式には締結されていないので、預かった手付金を返金する」という連絡が入った。
現在住んでいる物件の退去通知も行ったため、
いまさら契約できないといわれても困るのだが、何とかならないか?

(回答)

ほとんどの賃貸借契約では、「(連帯)保証人の確保」という条件がついていますが、
これをどのように理解するかによって、契約が成立しているかどうかという判断が分かれてきます。
一部の都道府県によれば、「保証人の確保」は契約の「停止条件」として取り扱っています。
「停止条件」としてとらえると、保証人の保証書が提出されるという「条件」が満たされて初めて、
「契約の成立」とみなされることになります。

逆に言えば、それまでは、契約が成立していないとみなされるわけですので、
仲介業者の主張の通りということになりますので、他の物件を探さざるを得なくなります。
しかし、正確に言えば、「保証人の確保」は、「停止条件」ではなく、「解除条件」なのです。

「解除条件」としてとらえると、「万が一、保証人の確保ができなかった場合には、
成立していた契約を解除する」ということになります。
似ているようですが、法的な意味としてはまったく異なるのです。

なぜ、「解除条件」であるかと言えば、家主にとっては、万が一、
借主側が保証人を立てられないという事態に陥った場合でも、契約を解除する、
保証会社の利用をしてもらう、保証人なしでも契約する
(他の入居者を見つけるのが困難な場合など)などの選択肢があり、
その時点で、解除するかどうかを判断することができるからです。

いずれにしても、保証人の確保は、契約の解除条件ですので、
契約としてはそれ以前に成立していることになります。

契約の成立2

申込書を提出し、手付金も支払っていたのに、後日、家主から、
「都合で入居できなくなったが、まだ契約書を交わしていないので、
預かった手付金を返却する」という連絡が入った。
現在、住んでいる物件の退去通知も行ったため、
いまさら契約できないといわれても困るのだが、何とかならないか?

(回答)

契約が成立するには、家主の承諾が必要ですが、
契約書への双方の署名・捺印がなければ契約が成立しないというわけではありません。
したがって、家主から契約を解除するには、手付金の倍返しを行う義務があります。

契約書は、契約した内容を双方が覚えておくための書類だということを、
家主にきちんと理解してもらい、手付金の倍返しを行うように交渉してください。

契約の成立1

申込書を提出し、手付金も支払っていたのに、後日、仲介業者から、
「家主の都合で入居できなくなったので、手付金の倍返しを行って解約する」という連絡が入った。
現在、住んでいる物件の退去通知も行ったため、
いまさら契約できないといわれても困るのだが、何とかならないか?

(回答)

手付金を支払っていたということは、家主が契約の承諾していたという前提がありますので、
契約が成立していたということです。

その場合、家主がカギを渡すとか、借主が契約金の全額を支払っていた
(契約の履行に着手していた)ということがなければ、解約手付けとして、
家主は、預かった手付金を返し、さらに同額を借主に支払う(手付金の倍返し)ことで、
契約を解除することができるのです。

逆に言えば、家主が手付金の倍返しを行えば、それ以上の責任を逃れることができますので、
借主としては、他の物件を探すしかないのです。

敷金「返還義務」明文化へ…賃貸住宅退去トラブル

賃貸住宅で敷金を巡るもめ事が相次ぐため、民法が改正され、敷金の定義などが明文化される見通しになった。

 敷金トラブルの減少につながるとの期待もある。法改正の方向性を理解しつつ、賃貸住宅の契約内容や生活上のルールも把握して、快適に賃貸暮らしを楽しみたい。

 敷金について明確な定義はないが、一般的には、賃貸住宅に入居する際、賃料などの債務の担保として家主に払うお金を指す。不動産・住宅情報サイト「HOME’S」によると、首都圏の平均敷金は家賃約1か月分だ。敷金は退去時に返還されるべきものだが、実際は住宅の原状回復費用を敷金で精算することが多く、敷金が返還されなかったり、どこまで費用を負担するかなどでもめたりする。

 近年は敷金や礼金がかからない「ゼロゼロ物件」が目立つ。入居時の費用が抑えられるメリットに加え、退去時の敷金トラブルとも無縁と思われがち。だが、契約事項に「退去時、借り主が掃除代を全額負担する」などの特約が設けられる場合が多く、想定外の出費がかかることもある。

 建設省(現国土交通省)は1998年、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を策定した=表〈1〉=。畳の日焼けによる変色など、注意していても発生する劣化や汚れは、借り主の負担する費用の対象にならないといった指針を示した。東京都も、同様の指針を盛り込んだ条例を2004年、施行している。

 それでも、トラブルは多い。国民生活センターのまとめでは、敷金や原状回復を巡る相談はここ数年、年1万件以上で推移。今年度は6165件(9月末まで)と、前年同期に比べ微増だ=グラフ=。

 こうした状況を受け、今年8月、政府の法制審議会の部会が民法の契約に関する規定を抜本改正する案をまとめ、敷金の定義や返還の範囲をルール化した=表〈2〉=。

 改正案では、敷金を「家賃の担保とし、契約終了時に返還義務が発生する」と定義。また、借り主は通常の使用による傷や経年劣化を修理する必要がないとも定めた。改正案は、来年の通常国会に提出される見込みだ。

 改正案について、賃貸住宅のトラブル解決を図るNPO法人、日本住宅性能検査協会(東京)理事長の大谷昭二さんは「借り主に分かりやすいルールが示されることで、トラブルが減少すると予想される」と評価する。法に定義づけることで、強制力のないガイドラインより、借り主に有利に働くことも期待される。

 とはいえ、賃貸住宅の契約内容をきちんと理解することの重要性は変わらない。「退去時の部屋の掃除代、鍵の交換代といった特約など、内容をよく読んだ上で入居することが大事」と、国民生活センターの担当者は指摘する。

 不動産・住宅事情を調査する、HOME’S総合研究所(東京)のチーフアナリスト、中山登志朗さんも「契約書を見たその場で押印するのではなく、契約書のコピーをもらって一晩考える。疑問に思う事項があったら説明を求めるなど、納得いくまで確認して」と助言する。

 【表〈1〉】「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に示された修繕の分担例

 <家主負担になる例>

 壁に貼ったポスターや絵画の跡

 クロスや畳の日照による変色

 家具の設置でできた床のへこみ、設置跡

 エアコンの設置による壁の穴や跡

 <借り主負担になる例>

 引っ越しで生じた傷

 鍵の紛失や破損による取り換え

 落書きなど故意の損傷

 喫煙によるクロスの変色、臭いの付着

 【表〈2〉】敷金に関する民法改正案の特徴

 敷金を「家賃の担保」と定義

 契約が終了し、物件を引き渡した時に、返還義務が生じる

 通常の使用による室内の傷みや経年変化などについて、借り主は原状回復の義務を負わない

 (民法・債権関係の改正に関する要綱仮案を基に作成)

(TOMIURI ONLINEより)