「社宅」 と 「消費者契約法」 について

消費者契約法では、「消費者」を個人として位置づけている。
事業者については、「法人その他の団体及び事業として又は事業のために
契約の当事者となる場合」のことを指すと定めた。

まず、社宅の法的取り扱いをみてみる。
社宅とは、会社が社員に貸す住宅ですが、
その使用関係は様々で、その法的な取扱いは、
貸す目的の違いや使用料の有無・金額によって違ってきている。

1 会社の業務運営のための社宅で、会社組織の必要な構成部分になっているもの

例えば、
①住み込みの管理人や警備員用の部屋のように
会社施設に付随している社宅(業務社宅)や
②支店長・工場長・部長などの地位に相応して与えられる専用の社宅
(いわゆる役付社宅)などの場合がこれに当たる。

このような社宅の使用は、使用料の有無・額に関係なく、
会社での職種や地位など労働関係と密接に結びついているため、
借地借家法の適用を受ける賃貸借ではないと言われている。

従って、社員が解雇・退職・転勤などによって
その会社や職場の労働関係から離れる場合には、
社宅を使用する権利も同時に無くなることになる。

2 会社が社員(従業員)の福利厚生のために設けた社宅

このような社宅が一般的な社宅であり、借地借家法との関係が問題になるのは
福利厚生施設としての社宅である。

学説は無料の社宅は勿論、市場家賃の数分の一程度の
低い名目的な使用料で提供されている住宅にも、「有償性」を認め、
社宅の使用を社員の労働力に対する労働対価(一種の現物給与)と理解し、
社宅の使用関係を賃貸借関係として、借地借家法の適用を肯定している。
しかし、判例は社宅の使用料が賃料として社会的に認められるかどうかを
判断基準(使用料の高低)として、借地借家法の適用の有無を判断している。

(1)使用料が無料か、有料であったとしても低額で名目的な場合

例えば、使用料を毎月2万円出しているが、その社宅と同程度の利用価値のある
普通の借家の家賃水準が月10万円以上もするような場合は、
その使用料は借家を使う対価として支払われる家賃とは考えられず、
その使用関係は、社員である期間に限って社宅の使用を認められる特殊な契約関係で
賃貸借関係ではないというのが判例
最高裁判所 昭和29年11月16日判決 (民集8巻11号2047頁)、
同旨最高裁判所 昭和39年3月10日判決 (判例時報369号21頁)、
同旨最高裁判所 昭和44年4月15日判決 (判例時報558号55頁)
である。

従って、借地借家法の適用はなく、会社に社宅使用規則があれば、
それが著しく居住者に不利でない限り使用規則は有効ということになる。

(2)使用料が普通の借家の家賃水準と同等かそれに近い場合

この場合の使用料は借家を使う対価として支払われる家賃であり、
その使用関係は賃貸借関係で借地借家法の適用があるというのが判例
最高裁判所 昭和31年11月16日判決、民集10巻11号1453頁
である。

それでは、何処までの契約を「消費者契約」とみて、
消費者契約法の適用を認めるかという問題である。

消費者契約法〈弁護士 村 千鶴子〉〈中央経済社〉より
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個人で商売などの事業を営んでいる人にも、
当然個人の私生活や消費者生活があります。
そこで、個人名義で契約した場合に、その契約が私生活のためのものなのか、
事業のためなのかによって、区別して考えればよいということになります。
この区分の判断は、実質的な内容で判断する必要があります。

たとえば、「自宅兼店舗の理髪店で、多機能電話の契約をした」という場合には、
「その電話を使用する目的な何なのか」によって違ってくるわけです。
自宅で家族と共に使用するものであれば、消費者契約になるでしょう。

店舗で、顧客からの予約などを受け付ける為に使用するのであれば、
事業のための契約となると考えられます。
両方に使用することがある、という場合には、ウエイトはどちらかが大きいかという
実質的な判断が必要となります。電話予約などはあまりとっていないので、
普段は私用の電話として使っているが、たまには電話で予約してくる
顧客もいないわけではないという場合にも、私生活での使用が中心ということで
消費者契約と考えるべきだといえます。

個人で店舗や事務所などを経営している人が、パソコンなどを購入した場合にも、
何のために使用するウエイトが大きいのか、によって区別することになるでしょう。
店舗の財務管理のためであれば消費者契約には該当しないでしょうが、
自分の趣味のために使用するというのであれば、消費者契約であるといえます。
このあたりの判断は、ケースバイケースで実態をみてゆくことになろうかと思われます。

〈弁護士 村 千鶴子〉
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法律の目的は、条文に「消費者と事業者との間の情報の質
及び量並びに交渉力の格差にかんがみ」と記載してあるように、
消費者契約法の制定過程で指摘されてきた「消費者と事業者とは、
対等の関係にないために構造的に消費者被害が発生するものである」ことを前提として、
「情報格差」と「交渉力格差」があることを法律上で明確に指摘している点は、大変重要だ。
消費者契約法の目的と賃貸借契約の実態(借地借家法が適用されるのか否か等)
で判断基準を設けるべきだと考える。

具体的には、最初の契約時点で、礼金・敷金を誰が負担したのか、
企業名義で契約していたとしても、実際に、契約締結は
入居者本人が行ったとか、礼金・敷金を負担したのが、
入居者自身であった場合、また家賃を入居者が払い続けていた場合等で
消費者契約法が適用されるか否かを考える必要がある。
「会社の業務運営のための社宅で、会社組織の必要な構成部分になっているもの」
については、借地借家法の適用除外となる社宅は適用されないと考える。

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