民法の大改正がいよいよ実現

民法の大改正がいよいよ年内に実現しそうです。1896年の現行民法制定以来、120年ぶりの改正とあって、様々なメディアで特集が組まれるなど、話題となっています。その内容は、相談者も指摘するように、極めて多岐にわたっており、「飲み屋のツケから逃げられない」「損害保険の保険金受取額が増加」「保証人の原則禁止」「敷金は原則返還」「認知症の高齢者が交わした契約は無効」など、一般のサラリーマンにも大きな影響がありそうです。

 この改正の発端は2009年10月の法務大臣からの諮問にあります。当時の千葉景子法務大臣(弁護士出身)が、「民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について、同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする等の観点から、国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい」と、民法改正を法制審議会に諮問し、同年11月から法制審議会民法(債権関係)部会において、民法のうち債権関係の規定について、契約に関する規定を中心として見直しが開始されたわけです。13年2月26日開催の同部会第71回会議では「民法(債権関係)改正に関する中間試案」が決定され、パブリック・コメントの手続きを経てさらなる審議が行われ、14年8月26日に開催された同部会第96回会議において、「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」が決定されて、同年9月8日に法務省から発表されるにいたりました。法務省は、今年2月ごろに予定される法制審議会の答申を受け、今年の通常国会への法案提出を目指しているということです。

敷金は原則返還

 マンションなどを賃貸する場合、家賃の1~3か月分程度の敷金が必要となることが多いですが、退去時に敷金が全く返ってこなかったり、ハウスクリーニング、クロス張り替え、畳表替えなどの原状回復費用として敷金以上の金額を請求されたりするトラブルが多く発生しています。独立行政法人国民生活センターには、敷金や原状回復に関するトラブルに関する相談が、2012年には1万4212件、13年も1万3916件寄せられているということです。

 敷金に関しては、民法には規定がなく、国土交通省が制定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」があるものの、遵守じゅんしゅしなくとも罰則が科せられるわけではありませんでした。

 そこで、要綱仮案では、敷金を「賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と明確に定義付けた上で、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」は、「賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならない」として、敷金の返還義務を規定しています。

 また、最高裁判所・平成17年12月16日判決が、「賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払いを内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払いを受けることにより行われている。そうすると、建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになる」と判示しているように、判例では、通常の使用をした場合に生ずる劣化や通常損耗は原状回復義務には含まれないとされています。

 要綱仮案は、「賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に回復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」として、原状回復義務について、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と判例で示されていた内容を明確に規定することとなっています。

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