賃借人が負担する定額補修分担金特約は、消費者契約法により無効となる可能性があり、紛争を避けるためにはそのような特約を締結すべきでない。
賃貸借契約では、契約解除に伴う賃借人の退去時の原状回復費用を巡って、賃貸人と賃借人との間でトラブルが多い。原状回復は賃借人の義務(民法第598条)であるが、これは、賃借人が賃借する上で持ち込んだ家財等を収去する旨が基本と解するのが適切で、国土交通省の原状回復ガイドラインからも、賃借物件の経年変化や自然損耗についての原状回復費用は、家賃の中に含まれるものとして、賃貸人が負担することが望ましい。
判例でも、「修理・回復費用は定額補修分担金で賄い、修理・回復費用が同分担金を上回った場合でも下回った場合でも賃借人に返還しない(ただし、賃借人の故意・過失による損傷は除く)」、「入居の長短にかかわらず返還しない」とした定額補修分担金特約が消費者契約法第10条(【参照条文】参照)により、消費者に不利な特約として無効とされ、賃借人の返還請求が容認されたものがある(【参照判例】参照)。
あらかじめ賃借人が負担する原状回復費用を定めておくことは、退去時の紛争防止対策としては一見合理的にも見えるが、本来は賃貸人が負担すべき原状回復費用を賃借人に負担させることは、消費者の義務が加重されていると言える。消費者は、賃借人と賃貸人との情報量や経験値の差などにより、賃借人が賃貸人と定額補修金の分担金額の内容や水準を交渉するのは難しい。また、双方の負担割合を賃貸人が一方的に決定しがちであり、そうなると本来対等であるべき賃借人の権利を害し、消費者である賃借人の権利を一方的に害することもある。これは、民法の基本原則(民法第1条第2項)に反するものである。
消費者契約法は、事業者と消費者との契約について、消費者が契約を取り消したり、不利な契約条項を避けたりする場合のルールを定めたものである。賃貸借契約における賃貸人は事業者として位置付けられるので、賃貸人(事業者)と賃借人(消費者)との間の居住用建物の賃貸借契約は、同法の適用対象となる。
京都地裁平成20年4月30日 判タ1281号316頁(要旨)
定額補修分担金特約は消費者たる賃借人が賃料の支払という態様の中で負担する通常損耗部分の回復費用以外に本来負担しなくてもいい通常損耗部分の回復費用の負担を強いるものであり、民法が規定する場合に比して消費者の義務を加重している特約と言える。―(中略)― そうすると、本件補修分担金特約に基づいて賃借人に対し、分担金の負担をさせることは民法第1条第2項に規定する基本原則に反し消費者の利益を一方的に害するといえる。
―(略)― 以上によれば、本件補修分担金特約は民法の任意規定の適用に比して賃借人の義務を加重するものというべきで、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するもので、消費者契約法第10条に該当し、無効である。
