賃料減額しない旨の特約があっても借主の減額請求権が認められた事例

<賃料減額しない旨の特約があっても借主の減額請求権が認められた事例>

建物所有を目的とする土地の賃貸借契約において、
賃料を減額しない旨の特約があっても、
賃借人から借地借家法第11条の規定に基づく賃料減額請求権の行使が
認められた事例 (最高裁平成16年6月29日判決、判例時報1868号52頁)

(事案の概要)

本件土地賃貸借契約は、「3年ごとに賃料の改定を行うものとし、
改定後の賃料は従前の賃料に消費者物価指数の変動率を乗じ、
公租公課の増減額を加除した額とするが、
消費者物価指数が降下しても賃料を減額することはない」旨の特約が付されていた。

これまで、本件土地の賃料は、本件特約に従って3年ごとに改定されてきたが、
賃借人は、「その後土地の価格が4分の1程度に下落したことなどに照らして
現在の賃料額は高すぎる」と主張して、賃貸人に対して賃料の減額を請求し、
減額後の賃料額の確認を求めて本件訴訟を提起した。

これに対し、原審の大阪高等裁判所は、「本件のような賃料の改定特約は、
賃料の改定をめぐって当事者間に生じがちな紛争を事前に回避するために、
改定の時期、賃料額の決定方法を定めておくものであり、本件特約は、
消費者物価指数という客観的な数値であって賃料に影響を与えやすい要素を
決定基準とするものであるから有効である。

したがって、本件特約に基づかない賃借人らの賃料減額請求の
意思表示の効力を認めることはできない」として賃借人の請求を棄却した。

そこで、賃借人は、原判決を不服として、最高裁に上告受理の申立てを行った。

(判決)

最高裁は、上告受理の申立てを受理し、『本件土地賃貸借契約においては、
消費者物価指数が降下したとしても賃料を減額しない旨の特約が存する。
しかし、しかし、借地借家法第11条1項の規定は、強行法規であって、
本件特約によってその適用を排除することができないものである。

したがって、賃貸借契約の当事者は、本件特約が存することにより
借地借家法第11条1項の規定に基づく賃料減額請求権の行使を
妨げられるものではないと解すべきである。』と判示した。

(短評)

本件は、賃料改定特約がある場合に、
特約に基づく請求ではなく(本件では「減額することはないとの定め」が
あるためその余地はないが)、借地借家法第11条に基づく賃料減額請求が
できるかがあらそわれた事案であるが、特約によっても減額請求を制限することは
できないとのこれまでの最高裁判例を確認したものである。

本判決は、賃料の減額をしない特約が明らかに存する場合においても、
賃借人からの賃料減額請求が認められた点において事例的な意義がある。

契約書1

(質問)

契約書の内容が借主に一方的に不利なので拒否したいのだが‥

(回答)

契約というのは、本来、対等平等な2者の間において、
一方からの「申し込み」と他方の「承諾」によって成立します。
これは、「諾成契約」と呼ばれており、口頭だけで成立します。

たとえば、何かを買いにお店に行った場合を想定して考えればよくわかると思います。
「これをください(申し込み)」、お店「ありがとうございます(承諾)」。
日本の社会自体も、対等平等を前提としていますから、
契約に関しても、「契約自由の原則」(私的自治の原則)というものがあり、
人身売買や殺人依頼など、公序良俗に反するような契約は無効ですが、
それ以外は、原則として、自由に契約することができるのです。

なお、建物の賃貸借契約では借地借家法の強行規定に反する契約は無効であり、
例文解釈と言って、契約書、契約約款中の定型的文言の解釈で、
文言通りに適用すると不当な結果となる場合に、その不当性を回避するために、
その文言を「単なる例文である」として、その有効性を否定する
契約解釈の手法などが適用されるときも無効となります。

「自由に契約する」というのは、契約内容も自由ですし、誰と契約しようが、
逆に契約を拒否すること自体も自由なのです。
さらに、契約の形式も自由なので、文書でも口頭でもかまわないのです。

民法自体も、「契約自由の原則」を前提としつつ、
契約内容を取り決めなかった場合のルールを規定しているのです。
賃貸借契約も、本来は、対等平等な私人間で契約すべきです。

しかし、実際には、対等平等どころではなく、
立場の強い家主が一方的に定めた契約内容を、
立場の弱い借主が承諾するかどうかにかかっているわけです。
ということは、単純に考えれば、借主に一方的に不利な規定を拒否したくても、
家主が認めてくれなければ、結局は契約そのものが成立しないのです。

つまり、家主には、「あなたとは契約しない」という権利があるわけで、
家主に「契約せよ」と請求すること自体できないわけです。

そういう状況を背景として、
民法だけでは立場の弱い借主が一方的に不利であるとして、
借地借家法(旧借地法、旧借家法)が誕生しました。
そのため、借地借家法では、「強行規定」というものを設け、
一部の規定については、「契約書にどのような記載があっても、
借地借家法の強行規定に反するもので、
借主に一方的に不利な条項は無効である」としているのです。

また、2001年4月には、消費者契約法というものもできました。
この法律では、「消費者の利益を一方的に奪う契約条項は無効である」としており、
賃貸借契約書にどのように記載されていても、
消費者契約法に違反するとされた場合には、借主は従う必要がなく、
裁判しても勝訴する可能性が非常に高くなってきています。

相談内容を見ると、「借主に一方的に不利‥」ということですが、
具体的な記載条項を確認する必要があります。
その条項が、借地借家法の強行規定や消費者契約法に違反すると
認められる場合には、そのまま契約しても、条項としては認められませんが、
できれば、トラブル予防のために、家主に「法律上認められないと思うので、
削除してもらえないか?」申し出ることもできます。
ただし、言い方には気をつけないと、
家主が契約そのものを拒否してくる可能性があります。

一方、上記の規定・法律に違反していない条項については、借主としては、
認めなければ、契約できない可能性が強くなります。

一般的な傾向として、空室が出てもすぐに借主が見つかるような
条件のよい物件の家主は強気ですので、
借主から「不利な条項を削除してくれ」と申し出ても、
「無理に契約してもらわなくて結構。他にいくらでも借りたいという人がいるから」
という答えが帰ってくるのがオチでしょう。

従って、「借主に一方的に不利な条項がある」場合、
「不利を承知でも契約したい」のか、
「納得できなければ契約しない」のかをはっきりさせた上で、
家主(仲介業者)との交渉に臨まなければなりません。

重要事項説明書4

(質問)

重要事項説明書の記載内容が実際とは異なっていたので、
業者に「契約を解除したい」と言ったが、
「申し訳ない」というだけで埒があかない。

(回答)

重要事項説明書の記載内容は、
契約するかどうかを判断する上で重要となる内容を説明したものですから、
記載内容自体が間違っているという場合は、
業者として、何らかの責任を負わなければなりません。

「記載自体が間違っている」場合の原因としては、
家主が業者に提供した情報自体が間違っていたケース、
業者が過失で記入間違いしたケース、
業者が故意に記載内容を変更したケースなどが考えられますが、
はっきりさせなければならないのは、
もし、「記載内容が間違っていなければ契約したかどうか?」です。

たとえば、遮音構造を物件選びの際に重視していた人が、
鉄筋コンクリート造だと説明されていたものが、
実際には鉄骨造だった場合などは、
業者は、単に「すみません」では責任をおったことにはならず、
契約解除する場合の損害をすべて負うべきでしょう。

しかし、建築年が1・2年事実と異なっていたというようなケースや
全体の部屋数が少し食い違っていたというようなケースでは、
契約するかしないかにほとんど影響はなかったはずですので、
損害賠償まで求めるのは無理でしょう。

従って、ご質問のケースでは、業者に対して物件探しの際に
重視するポイントとして説明していた事項が間違っていたのかどうかが
ポイントとなり、業者に対する責任追及の内容も
おのずと異なってくるものと思います。

重要事項説明2

(質問)

近くに迷惑施設があったのに説明がなかったが、
不動産業者は、「重要事項として説明する項目ではない」と言うが納得できない

(回答)

宅建業法第35条1項によれば、重要事項として説明すべき事項として、
登記簿上の権利関係、法律に基づく制限、水道ガス電気などの整備状況、
賃料のほかかかる費用についてなど、さまざまな事項について、
法律で「必ず説明すべき事項」として定められています。

不動産業者は、法律上明記された項目の中に、
「迷惑施設うんぬんという言葉がない」ということで、
説明しなくてもよいと考えているのかもしれませんが、法律をよく見ると、
第47条1項に「重要な事項の告知義務」を定めているのです。

これは、35条の法律上、具体的に明記されている事項以外でも、
契約するかどうかを判断するときに大きな材料となる事項については、
「重要な事項」として、必ず説明しなければならないとされているのです。
たとえば、過去に、自殺や火災などがあった物件については、
35条の「重要事項」ではありませんが、47条の「重要な事項」にあたるため、
必ず説明する必要があるのです。

そこで、「迷惑施設」といってもいろいろなものが考えられますが、
その中身と距離がどの程度であったかによって、
「契約するかどうかの判断材料として重要なポイントになるかどうか」が問題となります。
この点で、業者の言い分が正しかったかどうかを見極める必要があるでしょう。

重要事項説明1

質問)

「重要事項説明書」という書類もなく、説明もなかった。

(回答)

宅地建物取引業法によれば、仲介業者は、借主予定者に対して、契約前に、
物件の重要な事項について、宅地建物取引主任者が、主任者証を提示の上で、
説明することが義務づけられています。

もし、重要事項説明がなく、書類も発行されなかったとすれば、重大な業法違反になります。
万一、そういう事態が発生したときは、業者に「業法違反である」と通告し、
善処を求めるべきです。

不動産広告

(質問)

不動産広告では「徒歩5分」となっていたので契約したが、入居後、実際に歩いたら、
10分以上かかったので、「インチキではないか?契約を解除したい」と言ったところ、
業者は、「人によって歩く速度が違うから仕方ないし、解除するなら、
通常の手続きとなる」と言った。業者に反論することはできないか?

(回答)

どの業者も従うべきとされている「不動産の表示に関する公正競争規約」によれば、
「80メートル=1分」として計算することとされています。
したがって、道路距離(直線距離ではなく実際に歩くことができる道路の道のりを測った距離)が、
「80メートル×5=400メートル」に近くなければ、誇大広告となります。

ただし、坂道や信号等は計算に加える必要はないとされていますので、
広告基準に従っていたとしても、実際に歩くと多少は遠くなってしまうことが多いのです。

ゴミ処理3

(質問)

業者のゴミ回収が夜中に行われるため、騒音で起こされてしまう。
管理会社に苦情を申し入れたが、
「回収ルートと時間が決まっているので我慢してもらうしかない」と言われた。
何とかならないのか?

(回答)

まず、回収時間帯の変更ができないかどうかを、管理会社から、
ゴミ回収業者に申し入れてもらうことが先決でしょう。
それが、まったくだめだという場合には、
どれくらいの騒音なのかによって対応策が異なってくるでしょう。

深夜の騒音については、交通騒音の場合における建物の屋内における
騒音基準というものが定められていますので、
その基準を上回っているかどうかがひとつのポイントになります。

その基準は、夜間(午後10時~翌朝6時)は40デシベル以下というものです。
しかし、実際問題として、ゴミ回収車の騒音が「一瞬の間、40デシベルを越えていた」としても、
その事実を持って、「騒音基準違反である」と言えるかどうかは、判断が分かれるでしょう。

なぜなら、もともと交通騒音の場合には、
しょっちゅう車の往来がある場合の騒音基準であるのに対して、
ゴミ回収車の場合には、ほんの2~3分程度の時間だけのことだからです。

そのことから考えると、多少、ゴミ回収車の騒音が、交通騒音の基準を上回っていたとしても、
受忍限度であると言えるのではないかと思います。

なお、別の角度から、この問題を考えると、同じ物件で、
ゴミ回収車の騒音問題で苦情を言っているのは何人くらいいるのかもポイントになります。
つまり、このような苦情が、非常に限られた入居者だけ(一人だけ)というような場合には、
騒音自体の問題よりも、物音を騒音として捉えてしまうということに問題があるように思います。
音に対して、過剰な反応をしている可能性があるのではないかということです。

もし、そういうことであれば、耳栓をして自己防衛するとか、
一度、病院などで診察してもらって、原因を調べてもらうという手もあります。
そういう問題ではなく、建物の物理的な構造に起因すると考えられる場合には、
窓ガラスを2重窓にしたり、エアタイトサッシに代えてもらったりして、
遮音構造を増強したほうがよい場合もあります。

ゴミ処理2

(質問)

自治体のゴミ回収ではなく、業者による毎日回収をしているが、
毎月「ゴミ回収代」として費用を請求される。自治体なら無料なので、
入居者が費用を負担するのは納得できないのだが‥。

(回答)

このような問題は、本来、契約前に「解決」しておくべき問題です。

学生マンションなどでは、入居者である学生が、
ゴミ出しルールを守らないケースがよくあり、
家主や管理会社が後始末をしなければならないということが少なくありません。

つまり、ゴミ出しルールは、主に次のような5つのルールがあります。
指定されたように分別すること、指定された袋に入れること、
指定された曜日に出すこと、指定時間帯に出すこと、指定の場所に出すこと‥。

しかし、これらのルールをすべて守ることができない入居者が、
一定の割合でいるのが現実でしょう。
仮に、100人が居住しているマンションで、わずか2~3名のルール違反者がいても、
結果的にゴミが散乱してしまい、近隣からの苦情に発展することになるのです。

そこで、このような現実を背景に、最初から、民間のゴミ回収業者と契約し、
「毎日回収」を行っている学生マンションがあるのです。
そして、入居者には、ゴミ回収費用として按分負担してもらっているのです。

問題は、このような点については、契約前の重要事項説明で、
必ず説明されているはずですので、万が一、説明がなかったとすれば、
仲介業者の責任ですが、学生が契約する場合、多くの場合、
重要事項説明を熱心に聞いているのは保護者であり、
本来、きちんと内容を把握しておくべき本人(学生)は、
「すべて親任せ」というような態度で、重要なポイントも聞き漏らしていることが
少なくないのが現実なのです。

相談者が、「聞き漏らしていた」かどうかはわかりませんが、
そういうようなことはなかったかどうかを確認してみることが必要です。

契約期間中に、自治体回収から、業者回収に切り替えになった場合にも、
家主や管理会社が一方的に「悪い」とは言えないでしょう。
それだけのメリットを入居者が受けるわけですから、
負担する費用が許容範囲内(日額30~50円として
月額1000~1500円程度)であれば仕方ないのではないでしょうか?

しかし、一方で、費用負担以外については、別の問題を指摘する声もあります。
つまり、自治体回収では、分別回収が義務付けられているにもかかわらず、
業者回収の場合、多くは分別しないため、ゴミを出すほうは気楽なのですが、
ゴミの捨て場所の負担が増えたりして環境問題を悪化させる元となったり、
入居者の環境マインドを醸成しないなどの点で問題ありという声もあるのです。

ゴミ処理1

(質問)

ゴミの回収ルールを守らない入居者がおり、いつもゴミ回収場所がゴミで散乱してしまう。
近隣からも苦情が来るので、家主に苦情を申し立てたところ、
家主は、「ゴミ回収は入居者同士で話し合って解決してほしい」と言って取り合ってくれない。
今は、入居者の有志で後始末をしているが、何とかならないものか?

(回答)

家主の考え方が間違っていると思います。分譲物件と勘違いしているのでしょう。

分譲マンションなどでは、それぞれの入居者自身がオーナーであり、
管理責任者ですので、入居者同士が話し合って解決するしかありません。
そのために管理組合を結成するのです。

しかし、賃貸物件においては、それぞれの入居者はオーナーではありません。
管理責任も自分が借りている部分のみです。

ゴミ回収場所のような共用部分については、
その管理は、管理責任者である家主自身が行うべきなのです。
便宜上、入居者が共同管理しているような場合にも、
それは自主的なものであり、管理責任は、あくまで家主にあるのです。

家主は、家賃という対価を得て、他人に物件を貸している以上、
入居者に使用収益させる義務があるのです。
ゴミの回収を入居者にきちんと行わせ、ゴミの散乱を防止し、
それでもゴミが散乱して誰も後始末をしないような場合には、
家主がきちんと後始末をしなければならないのです。

そこで、入居者の連名で、家主に対して、
「家主には、入居者に対して使用収益させる義務があると同時に、
共用場所をきちんと維持する義務があるので、ゴミが散乱している場合には、
家主自身の責任で解決に当たってほしい」と言ってください。

定期借家契約での途中退去3

(質問)

定期借家契約で一戸建ての借家(延べ面積250平方メートル)を借りていたが、
このたび、老親が倒れて寝たきり状態になってしまった。その介護のため、
急きょ、実家に帰らざるを得なくなり、家主に契約解除を申し出たが、
「定期借家契約なので途中解約はできない。どうしてもというのなら、
契約期間終了までの家賃を支払ってから退去してくれ」と言ってきた。
家主の主張は横暴だと思うので、支払いに応じたくはないのだが‥。

(回答)

一般の定期借家契約(床面積が200平方メートル未満)なら、
「親族の介助」により、借りている物件に住めなくなった場合には、
借主の途中解約を認めています。

ところが、200平方メートル以上の物件の場合には、
解約権が認められていないのです。一般的に考えても、
借家で200平方メートル以上というのは、非常にまれなケースであり、
そういう物件を借りる場合には、かなり高額な家賃が予想されますし、
また、大勢で住んでいる可能性もあります。

借地借家法で規定している「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情」と
いうような事情があったとしても、法律で規定しているところの
「自己の生活の本拠として使用することが困難」なのは、
住んでいる人の一部だけだと考えられます。

そこで、このように広い物件を定期借家契約で借りている場合には、
借主の途中解約権を認める必要性は少ないということから、
床面積の制限が設けられたのではないかと考えられます。
いずれにしても、家主の主張は法的に正しいものですので、
その点を念頭において、妥協点を探るようにしなければならないでしょう。