2年に一度、必ずやってくる「家計の悪魔」と言ったら、あなたは何を思い浮かべるだろうか? ひとつは自動車の車検(新車購入時は3年後)で、もうひとつが賃貸住宅の更新料なのではないか。
毎月払っている家賃とは別に、その月だけ、次の2年間の賃貸借契約を再締結するために、店子側が1カ月分余計に払わないといけない。かつては関東など一部地域のローカルルールだったが、いまや全国的な慣習になりつつある。ぼんやりしていると、とたんに家計が赤字に陥ってしまうのではなかろうか。
しかし、ものは考えよう。更新が近づいてきた時期は、絶体絶命のピンチどころか、「家計の悪魔」を退治する絶好のチャンスでもある。取り組み方によっては、家賃を大幅に下げるか、もしそれがかなわないとすれば、更新料をその年だけでなく、引っ越さない限りは二度と払わないようにすることだって可能なのだ。
●具体的な値下げ交渉の例
年々家賃が下落していくなか、同じ物件に長く住み続けている人ほど、世間相場より高い家賃を払わされているケースが多い。もし、明らかに高い家賃を払っていることが判明した場合は、近隣同種と同じ家賃にしてもらえるよう、大家(交渉窓口は管理会社)と交渉すべきなのだが、その絶好のタイミングなのが更新を目前に控えた時期なのである。
管理会社から「更新のお知らせ」なる文書が届いたら、その返信として、家賃値下げの要請を行えばよい。2年間の契約期間が満了するに当たって、退去せずに再度次の2年間の契約を更新してあげる代わりに、家賃の値下げを要請するのである。具体的な文例を以下に掲載しておこう。
「海千山千不動産・賃貸管理部
○○マンション担当者様
前略
お送りいただきました『更新のお知らせ』につきまして、取り急ぎ回答いたします。
私が入居した○年前とは経済事情が大きく変わり、近隣同種の家賃は大幅に下がっています。つきましては、現在○万円の家賃を、近隣同種と同水準の○万円にしていただきたく存じます(ご参考までに近隣データを同封しました)。
もし、この額にご同意いただけるようでしたら、新賃料が記載された更新書類をご送付下さい。また、現行賃料のまま据え置かれるのでしたら、引っ越しを検討いたしますので、○年○月○日まで、その旨お知らせいただきたく存じます。
以上、よろしくお願いいたします。
草々
○年○月○日 ○○マンション△△号室入居者 ○○」
(出典:『家賃を2割下げる方法』<日向咲嗣/三五館>)
交渉が苦手な人でも、決まった文書を書いて送るだけならば抵抗なくできるはず。
このとき、事前に導き出した適正家賃の根拠を明示しておくのがコツ。例えば、いま家賃8万円を払っているのに、賃貸サイトで検索すると同じアパート・マンションの隣の部屋が7万円で入居者を募集していたら、その募集データを印刷して同封しておくのである。
あとは、先方からの連絡を待つのみと言いたいところだが、念のため文書を送付した数日後にちゃんと先方に届いているかどうかだけは、担当者に電話で確認しておきたい。あとで「そんなものは届いていない」と言い逃れされないためだ。届いていることさえ確認されれば、「ご検討お願いします」と一言添えておけばよい。
●大家サイドの対応次第で、引っ越しも検討
値下げレターに対する大家サイドの反応は、以下の4パターンに分かれる。
(1)何の返事もこない
(2)要求した額の値下げは無理だが、一部減額なら応じられるとの回答が来る
(3)減額には一切応じられないと拒否の回答が来る
(4)こちらの要求を全面的に受け入れた満額回答が来る
最も望ましいのは、やはり(4)の満額回答パターンだが、現実にはあまり期待はできない。ただ、契約を何度も更新して10年以上住み続けていて、その間一度も家賃改定が行われていなかったり、好景気の時期にロクに比較もせずに入居した人ならば、2割程度の値下げを要求しても、それがすんなり通る可能性は十分にある。うまくいけば、一枚のレターを送るだけで総額何十万円ものお金が浮くことになるのだから、相当にコストパフォーマンスが高い交渉といえるだろう。
意外にやっかいなのが、(2)の一部減額パターン。値下げ要求額1万円に対して、5000円の減額回答ならば、引っ越しに伴う諸々のめんどうや費用を考慮して妥協してもいいという考え方も当然ありえるだろうが、減額回答が2000円程度の中途半端だった場合にどう判断するかが難しいところ。
月2000円では、2年間の総額で4万8000円しか浮かない。確実に毎月1万円安くなる部屋に引っ越して2年間で24万円浮くのと比較すれば、あまりにも少ない。さらに引っ越し先が入居時にフリーレント(一定期間家賃無料特約)付きなら、それだけで引っ越し費用の大半は賄えるはずだから、更新はキッパリお断りして、引っ越したほうがはるかに有利という結論に達するだろう。
●合法的に更新料をなくす裏技
また、(1)と(3)はいずれも完全にノーの意思表示だ。家賃減額に関しては、ほぼ絶望的だ。これ以上交渉しても、無駄な努力になりかねないため、さっさとあきらめるしかないといいたいところだが、実は、このパターンになったときこそが更新料を合法的にカットできる、またとないチャンスなのである。
具体的にどうすればよいかというと、何もしなくていい。
管理会社から送られてきた契約更新書類、更新する場合は署名捺印して返送するが、これをただ放置しておけばよい。そして、そのまま契約が満了する日まで待ち、満了日以降もこれまでと同じ家賃を払い続ける。もちろん、更新料は1円も払わない。
「そんなことしたら、大家に追い出されてしまう」
そう心配するかもしれないが、現実には、まずそんな事態は起こらない。なぜならば、店子は「借地借家法」という法律で手厚く守られているからだ。詳しくは次回解説するが、一般の賃貸住宅の契約において、契約期間満了後も家賃を滞納することなく住み続けていれば、たとえ大家と条件面で合意に達していなくても、契約が満了した後、これまでと同じ条件で契約は自動更新されたものとみなすことになっているのである(借地借家法第26条に規定。これを「法定更新」と呼ぶ)。
しかも、そうして法定更新された契約は「期間の定めのないものとする」とされているため、一度自動更新してしまえば、これまで2年ごとに払っていた更新料は、よそに引っ越さない限り、永遠に払わなくてよくなる。
大家サイドとしては、それでも更新料を取りたかったら、改めて家賃交渉のテーブルにつき、多少の譲歩をした額で店子と契約を正式に締結する(「合意更新」と呼ぶ)しかない。つまり、家賃を下げずに更新料をあきらめるか、更新料は通常通りもらう代わりに家賃を下げるか、そのどちらかを選択するしかない事態に追い込めるのである。
自分に味方してくれる法律を知ってさえいれば、確実にトクできる典型例といえるだろう。