「原状回復」とは、どこまでの状態まで戻すこと?

そもそも「原状回復」というのは、「入居当時の状態に戻す」ことなのでしょうか?

本来の「原状回復」の意味は、「物件に持ち込んだ物品の撤去義務」のことです。つまり、退去時には、室内に持ち込んだ家財道具を運び出したり、壁に貼ったポスター等はきちんと剥がして下さいということなのです。

ところが、家主や管理会社の多くは、「原状回復とは、入居当時の状態に戻すことである」というような拡大解釈を行っていることが多いのです。

借主は、退去の際、原状回復を行う義務を負っていますが、それには、次のポイントがあります。

  1. 借主に、故意・過失・善良なる管理者の注意義務違反があれば、原状回復の責任を負いますが、それらがなければ、責任を負いません。
    つまり、家主負担となります。ちなみに、「善良なる管理者の注意義務」とは、自分のもの以上に丁寧に取り扱う注意義務のことです。
  2. 「自然損耗」(通常損耗)は費用負担の必要がありません。「自然損耗」(通常損耗)というのは、「通常の生活」を行っているときに発生した汚損・破損のことであり、これらについては、国土交通省から、借主の責任ではないというガイドラインが示されています。
  3. 「経年劣化」(経年変化)も費用負担の必要がありません。「経年劣化」というのは、建物は、年数が経過すれば自然と傷んできます。入居者の責任ではありえませんので、経年劣化による汚損・破損も入居者負担とすることはできません。
  4. 「工事施工単位」(「最少施工単位」)も注意すべきです。例えば、クロスの一部を入居者が汚損してしまった場合、その部分については張替責任がありますが、張り替える責任のある範囲は、「最少施工単位」、つまり、汚損のある部分の張替部分を含んで職人さんが来てくれる最小限度の範囲となります。
    通常は、クロスなどの場合は1枚単位です。ところが、家主や管理会社は、「1枚だけ変えると色違いが発生するので、全面張替えする」というような主張を行うことが多いのですが、色違いをなくすのは、次の入居者確保のために家主が行うことですので、家主が負担すべき費用となります。
    家主の希望で全面張替えする場合でも、借主が負担するのは、借主が責任を負う部分の最少施工単位です。
  5. 「償却」についても考慮されなければなりません。例えば、クロスやカーペットなどは、6年ごとに張り替えるのが標準とされており、6年後に1円の残存価値があると推定することとなっています。入居者にまったく責任がない場合でも、6年ごとに張替費用が発生します。
    そこで、入居者にも責任がある場合には、家主の「償却」との按分負担を行うべきだという考え方です。

入居者の責任範囲は、「自然損耗」と「経年劣化」、「工事施工単位」によって判断しなければなりません。そして、実際に負担すべき費用については、「償却」を考慮しなければならないとされています。